「今日からテストか…。」

全くテストなんて一体何の役にたつとゆうのだろう。

セイはそう呟くとマリア様の前で立ち止まった。

「ユミちゃんじゃん。」

マリア様の前でなにやらただならぬ雰囲気をかもし出すツインテールの小狸が一匹…いや生徒が一人。

こんなにも近くで呟いたのに一向に振り向こうとしない彼女は一体何をそんなに熱心にお祈りしているのだろうか。

そうっと後ろに忍び寄ってみたが全く気付く気配すらない。

『ふむ。一体何をそんなにいつまでお祈りしてるんだ?』

セイはユミのすぐ後ろで腕組をすると頭をひねった。

なんだかさっきまでの憂鬱な気分はすでにどこかへいってしまったように思う。

『祥子の事か…?いや違うな。もっとこう…。友達関係?でもなさそうなんだよね。

いつもより早い時間にきて一生懸命お願いして…もしかして…テスト?』

セイはポンと手を打った。もし、テストが理由だとしたらあまりにも分かりやすすぎる。

さすがにそこまで分かりやすくはないだろう。

と、思ってはみたが、そのお祈りがあまりにも長かったあげく、

自分に全く気付いてもらえないのが少し癪だったので、

少しイジワルしてみる事にした。

「ゆ〜みちゃん!!何をそんなに一生懸命おいのりしてるのかな?」

「ぎゃう!」

いつもどうりの反応のあと、ユミちゃんはセイの腕から逃れようと必死にもがいてみせた。

「ロ、白薔薇様!離してくださいよ!!!」

逃げようとするユミの反応がとても可愛い。

「や〜だよん。だってゆみちゃんあったかいんだもん。はなしてあ〜げない。」

そういって少しだけ腕に力をいれた。周りからヒソヒソと話声がする。あまりそうゆうのは好きじゃない。

ユミも聞こえたのだろう。真っ赤になって俯いてしまった。

こんなふうに素直にいちいち反応してくれるのは可愛くてうれしいのだが、その反面憎らしく思う事もある。

『あまり期待させないでよ…。』

「いや〜、朝から温かい一時をどうもありがとう。」

本心とはうらはらの言葉はまるで仮面のように自分に覆いかぶさってくる。

「私はカイロじゃありません!!全くもう、白薔薇様はいつもいつも!」

ユミはそういって少しセイから距離をとろうとしたが、

それが照れ隠しである事が分かったので、素直にうれしかった。

もういちどセイはユミの肩に手を回すとゆっくり出来るだけゆっくり歩いた。

細い頼り無さげな肩に回した腕が熱くなってくる。

『懐かしいな…。この感じ。胸が熱くなるような、痛くなるような…。』

あれほどあの時心に誓ったとゆうのに、心とはなんて脆くてしなやかなんだろう…。

ふと、視線を感じてユミを見下ろすと、案の定こちらをじっと眺めている。

『イタズラ続行中なの気付かれたのかな?…それとも私の心に…?』

「ん?なぁに?ゆみちゃん。そんなに見られたら私の顔に穴が開くじゃない。」

そう言ってすぐに視線を反らすと口笛を吹いた。曲はマリア様の心。

なんとなくそんな気分だったのだ。口笛が吹き終わるか終わらないうちに昇降口の入り口まで来てしまった。

『残念ここで終わりか…。』

セイはそっとユミの肩から腕を下ろし、歩き出すと、まだユミはヒョコヒョコとついてくる。

セイはその様子が可愛いやら切ないやらで思わず苦笑いをした。

「こらこら、君の上履きはあっちでしょ?それとも何かね。私とまだ離れたく無いのかな?ゆみちゃんは。」

『なんて…離れたく無いのは私だ…。』

「へっ?」

ユミは慌てて辺りを見向わしている。お得意の百面相をしながら。

この顔を見ればユミの考えているたいていの事はわかってしまう。ユミはどうやら全く気付かなかったらしい。

どうしてあんなにもゆっくり歩いたのか。時々わざわざ立ち止まってみたりもしたのに。

自然と笑いが込み上げてくる。

「ねぇ、ユミちゃん。ところで一つ聞きたいんだけど、マリア様に何をあんなに一生懸命お祈りしてたの?なにか大事な事?」

そう言ってセイはチラリと時計を見た。予鈴まであと5分とちょっとしかない。

『さぁ、どうする?ゆみちゃん。』

「な、なにをって、そりゃあテストをですねぇ…テストを…。」

そこまで言ったところでユミの顔からサァッと血の気がひいていくのがわかった。

あっとゆう間にコロコロ変わる表情でとても焦っている事がすごくよくわかる。

セイは一杯一杯まで我慢してきたものに、もう耐えられなかった。

「も、もう無理!!あははははは!!」

大声で笑うセイを見てもまだ気付かないユミにまた笑いが込み上げて来る。

「じゃあ、一つだけヒントをあげる。私初めからずっとユミちゃんの後ろにいたのに気付かないもんだから、

ちょっとイジワルしたくなったんだよね。」

これは半分嘘で半分は本当だった。

気付いてもらえなくて寂しかったのは本当だったのだが、本気でイジワルしたかった訳ではない。

『ただ君と一緒に居たかったんだ…。』

セイはユミの頭をポンポンと軽く叩くとウインクした。

「がんばってね。テ・ス・ト。」

そういってセイは教室に向かって歩き出した。きっとユミは百面相しているだろう。

どうゆう意味なのか、と。そして気付く。怒るだろうか。それともいつもの事だと思うだろうか。

いやきっと前者だろう。ここは逃げるが勝ちだ。その時だった。予想以上に早く後ろから涙声で

「白薔薇様のばかぁ〜。」

と聞こえたのだ。その声は甘えるような咎めるような声で…。

思わずセイは顔を片手で覆った。きっと今のセイは、さっきのユミよりも顔が赤いだろう。

『だめだ…。今振り向いたらさすがのゆみちゃんでもきっとばれる…。』

セイは振り向かず片手を上げ、ゆっくりと振り、だれにも聞こえないような声で呟いた。

「君が好きなんだ…。ゆみちゃん。」

折しもその声は予鈴にかき消され、今はまだセイの心の中で静かに暖められていた。


後日、ユミの気になるテストの結果はと言えば、ユミの顔が全てを物語っていた。

セイ×ユミ    テスト