「はぁ…。今日からテストか…。」
ユミはマリア様の前で立ち止まると手を合わせた。
『マリア様、どうかテストの結果が悲惨なものではありませんように。』
かれこれ5分ほどお祈りをしていただろうか、突然後ろから伸びて来た腕にユミは少しも気がつかないでいた。
「ゆ〜みちゃん!!何をそんなに一生懸命においのりしてるのかな?」
「ぎゃう!」
ユミは恐竜の赤ちゃんのような叫び声をあげ、飛び上がった。
「ロ、白薔薇様!!離してくださいよ!!!」
「や〜だよん。だってゆみちゃんあったかいんだもん。はなしてあ〜げない。」
白薔薇様はそういってユミを抱き締めていた腕に力を込める。
ユミはどうにか逃げ出そうとするのだが、なかなかうまくいかない。
二人がじゃれあっているのを見て周りからザワザワと声が聞こえてきた。
ユミが恥ずかしくなって抵抗するのを止め、俯いてしまったのを見て、ようやく白薔薇様が腕をほどいた。
「いや〜、朝から温かい一時をどうもありがとう。」
「私はカイロじゃありません!!全くもう、白薔薇様はいつもいつも!」
ユミが少し白薔薇様から離れて歩こうとすると白薔薇様はそれに気付いたのか、
ニヤリと笑うとユミの肩に腕を回し、校舎へと歩き出した。
白薔薇様は歩調をユミに合わせてゆっくり歩いてくれる。ユミもそれに甘えてゆっくりと歩く。
肩に乗った白薔薇様の腕を妙に意識してしまって心臓がドキドキする。
『なんだろう…おかしいな。いっつもはこんなにドキドキしないのにな…。』
ユミはちょっとだけ上を向いて白薔薇様の顔を見た。
「ん?なぁに?ユミちゃん。そんなに見られたらあたしの顔に穴が開くじゃない。」
なんて言って口笛なんて吹いている。ユミは自分の心臓の上に手をあてるとその早さを確かめた。
いつもより少し早いような気がしないでもない。正確なところは医者ではないユミにはわからないが。
すると突然白薔薇様の腕がユミの肩から下ろされてしまった。
ユミは突然なくなった腕の重みに、ツキンと胸が痛むのを感じた。
どうやら、気付いたら昇降口まで来てしまっていたらしい。
まだついてこようとするユミに白薔薇様は苦笑いしながらユミの頭にポンと手を置いた。
「こらこら、君の上履きはあっちでしょ?それとも何かね。私とまだ離れたくないのかな?ユミちゃんは。」
「へっ?」
ユミはそう言って辺りを見回すと、すでにそこは3年生の昇降口だった。
『私ってばいつの間に!全然気付かなかった…。』
ユミの百面相に白薔薇様はクックッと笑いをこらえている。
「ねぇ、ユミちゃん。ところで一つ聞きたいんだけど、マリア様になにをあんなに一生懸命お祈りしてたの?
なにか大事な事?」
白薔薇様はそう言って意地悪な笑みを浮かべた。
「な、なにをって、そりゃあテストをですねぇ…テストを…。」
ユミはそこまで言ってハッとした。そうだった!今日からテストだ!!
白薔薇様に抱きつかれてすっかり忘れていた。ヤバイ。
せっかく早く来て最後の勉強をしようとしてたのに…。ちらりと腕時計を見ると予鈴まであと5分もない。
「も、もう無理!!あはははは!!」
白薔薇様は突然大笑いをしはじめた。ユミはきょとんとして何がそんなに可笑しかったのか考えた。
きっとユミの顔に分からないと出ていたのだろう。白薔薇様はお腹を押さえながら、言った。
「じゃあ、一つだけヒントをあげる。私初めからずっとユミちゃんの後ろにいたのに気付かないもんだから
、
ちょっとイジワルしたくなったんだよね。」
白薔薇様はそう言って上履きに履き替え、ユミの頭に軽く手を置くとウインクした。
「がんばってね。テ・ス・ト。」
その言葉にユミはようやく気付いた。すべて白薔薇様の罠だったのだ。
いや、そんなに大それた事ではないのだが、今のユミにとっては大問題だ!
ユミは手をグ−にして振り上げると、スタスタと歩いていく白薔薇様に向かって振り回した。
「白薔薇様のばかぁ〜。」
ユミの涙声はきちんと聞こえていたのだろう。白薔薇様は振り向きもせずに、片手をあげヒラヒラと振った。
その手がなんだか無償に愛しくなって、ユミの治まっていた心臓はまたドキドキと高鳴り始めた.。
そしてそれと同時に予鈴が鳴った…。
後日、テストの結果が散々だったのを知っているのはきっとユミと白薔薇様だけだろう…。