たった数時間の誤差が、私とキミの中にずっとある。
それが出会う事はこれからもないのかもしれない。
でも、どこかで出会ったその時は、きっと想いを伝えよう・・・。
最近のサービスエリアはなんだか凄い…。
車を降りた三人の頭の中に一番に浮かんだのはそんな事だった。
セイ、ヨウコは目の前にそびえたつ看板に思わず苦笑いする。
エリコに至っては目をキラキラさせてその看板を上へ下へと眺め回していた。
「聖…温泉ですって…」
呆れたようにヨウコがポツリと呟く。
「・・・うん・・・誰が入るんだろう・・・」
「さあ」
珍しいモノ好きのエリコは相変わらず目を輝かせたままセイの腕に掴まり背伸びをしている。
「江利子・・・何してるの?」
見かねた聖がそう声をかけると、エリコは満面の笑みでこう言った。
「中がどうなってるのか気にならない?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
そんなものを見て一体どうするつもりなのか…。
いや、それ以前にそんなに簡単に見えるような温泉に誰が入るというのか…。
本当にエリコという人間が解らない・・・。
「・・・とりあえず、私お手洗いに行ってくるわ」
諦めたように首を振るヨウコに、エリコが手を上げた。
「待って、私も行くから。聖は?」
「私はいい。あっちの車がついた時誰も居ないんじゃ心配するだろうし」
「そうね、じゃあここはあなたに任せるわ」
「ええ」
セイは2人を見送ると傍にあったベンチに腰掛け、残りの五人が乗った車の到着を待った。
しばらくして、およそサービスエリアには似つかわしくない車が一台目の前に止まった。
そのあまりの威圧感に周りの人たちの視線を釘付けにしている。
「聖さま!…あれ?蓉子さまと江利子さまは・・・」
一番に車から降りて来たのはユミだった。
白いワンピースの裾がヒラヒラと揺れて、まるで風にゆれる花弁のようだ。
セイがその光景に見惚れていると、ユミは不思議そうな顔をしながら突然セイの目の前に顔を近づけてきた。
「うわっ!な、何!?」
突然のユミのアップにセイは思わず仰け反るとバクバクする心臓の辺りを押さえる。
どうしてこんな事ぐらいでいちいちこの心臓はこんなにも忙しなくなってしまうのか・・・。
セイは苦笑いしながらユミから視線を外した。
「何?じゃありませんよ。蓉子さまと江利子さまはどうされたんです?」
あんまりなセイの反応にユミは少しだけキツイ口調で聞き返したが、
セイはユミから視線を外したままそっけなく、あっち、と指差した。
セイの指差した方を辿ると、そこにあるのはお手洗い。
なるほど、どうやらセイはここで自分達の到着を待ってくれていたらしい・・・。
「他の皆は?」
「まだ車の中です。志摩子さんと令さまはもうじき降りてくると思いますけど…」
ユミはそこまで言葉を切った。
ヨシノとサチコは車の中で爆睡してしまって一向に起きる気配が無かったのだ。
せっかく皆で来たのだから、たとえ目的地では無くても皆で楽しみたかったのに…。
ヨシノはすでに疲れきっていたし、サチコはといえば相変わらず車に乗った途端に薬を飲んで休んでしまった。
しょんぼりとうなだれるユミの頭をセイは切なそうに笑いながら優しく撫でると、その小さな手をとって言った。
「さてと、それじゃあ中、入ろうか?」
「えっ!?でも…他の皆さんは…」
「大丈夫。蓉子も江利子もそろそろ出てくるでしょ。それに電話入れておけばいいし。
祐巳ちゃんが私の携帯持ってるんだよね?」
「あっ、はい」
ユミはそう言うとバックの中からセイの携帯電話を取り出し、セイに手渡した。
セイはそれを受け取ると、たどたどしい指裁きでなにやらポチポチとやっている・・・。
「聖さま?」
「ん?ああ・・・メール入れとこうと思ってさ。先に中に入ってるからね、って」
そう言ってセイは携帯をもう一度ユミに手渡すと、つないだ手にほんの少しだけ力を込めた・・・。
「祐巳ちゃん、何か食べる?」
「へ?い、いえ・・・特には・・・あっ、でも・・・」
ユミはそう言って視線をセイの後ろに向ける。
セイはその視線を追うように振り替えると、そこにはソフトクリームの置物が置いてあった。
「あれ・・・食べたいの?」
「え、ええ、まあ・・・おいしそうだなって・・・」
もじもじするユミに、セイはにっこり笑って言った。
「奢ってあげようか?」
「えっ!?そ、そんな!い、いいですよ」
別に奢ってもらいたくて言った訳では無いのに、なんだかユミは申し訳ない気分になって俯いてしまう。
「いいって。私も食べたいし・・・ただし一つ条件が」
セイは俯いてしまったユミのアゴに手をあて無理矢理その頭を上げるとニヤリと笑った。
「じょ、条件・・・ですか?」
「そう、条件。・・・そんなに心配そうな顔しなくても簡単な事だから」
・・・そう、簡単な事・・・とても・・・
「な、なんでしょう?」
「それはね、これ買ってあげる代わりにくじ引き通りの席に座ろうよ、ちゃんと。ね?」
出発する前に誰がどこに座るかをくじ引きで決めた。
くじ引きではユミはセイの隣に座るはずだった…それなのに何故か気付いた時には隣にはヨウコがいた。
別に裏工作をしたわけでもなんでもないのに、ユミが自分の隣の席を引いた時、
どれほど嬉しかったかなんてユミは知らないのだろう・・・。
そしてくじ引きに逆らってサチコの方に乗ったときの辛さも・・・。
セイはユミの手を離して腕組をすると、ユミの返事を待った。
すると、ユミは何の躊躇もなくパッと表情を輝かせて胸の前で手を組み、
その場で嬉しそうにピョンピョンと跳ねる。そして本当に嬉しそうな顔で言うのだ。
「じゃあ私はチョコレートとバニラが混ざったやつがいいです、聖さま!」
「え?・・・それって・・・」
・・・隣に座ってくれるの?
セイが言い終わらないうちに、ユミはニッコリと笑うとセイの手を引っ張りソフトクリーム屋の前へと連れ出した。
きっとこれは隣に座ってもいいよ、という事なのだろう…。
セイは痛いような甘いような笑いを噛み殺すとソフトクリームを二つ注文した。
抹茶とミックス…渋いのと甘いの…まるで今の自分達のようだと思った・・・。
キミを見ると心が揺れる。
それは名も無い花に感動するような、
道端に咲いてる花にそっと涙するような、
そんななんとも言えない感覚・・・。
これが恋なのか・・・これが愛なのか・・・
想いが行き着く場所・・・それは一体どこだろう。