今どうしているの?
今どこにいるの?
私はキミがいないとこんなにも一人ぼっち・・・。
カトーさんから貰った祐巳ちゃんの夏休み日程表には、どこにも祥子の別荘なんて書いてなかった。
いつ帰ってくるかも解らない。今どこにいるのかも解らない・・・。
どうしてこんなにも苦しいのか、どうしてこんなにも辛いのか。
会えないから?それとも会いたいから?・・・もうそれすらも解らない・・・。
なんとなく近所の川原なんかに来てみたけど、誰もいないし、何もない。
ただ流れる川の水をぼんやりと見つめては、私はまた溜息をつくだけ・・・。
祐巳ちゃんの事を考える時間は私の中ではとても大事な時間で、とても贅沢に思えるけど、
一方ではその時間はなんて虚しいものなんだろう…なんて思う事もある。
1日の大半を祐巳ちゃんに費やしたくても、それは出来ないのが現実。
私は人間だ…生きているんだ…だから辛いし、だから悩む。
もしロボットであったなら、インプットされた事だけをこなしていればいいのだろうけど、それにはなりたくないし、
私には向いていない。好きな事をして生きたいし、まだもう少し自由でいたいとも願っているから・・・。
私を探して・・・。
私を想って・・・。
あなたが居ないとこんなにも私は小さい・・・。
お姉さまの別荘に来て、偶然柏木さんに会った。
あまり好きではない筈なのに、何故かこの人を見ると聖さまを思い出してしまう。
聖さまと言えば・・・お姉さまがここに来る前「聖さまを誘ったら?」と言ってくれていたっけ。
もちろん他の人たちも候補に挙がっていたのだから、
聖さまはあくまでその中の一人だったのかもしれないけれど…。
あの時私はすごく驚いたんだ・・・もしかして聖さまの事を想う自分の気持ちに気付かれたんじゃないかって・・・。
それに、もしここに聖さまが一緒に来ていたなら私はきっと聖さまばかり気にするに違いない。
それをしてしまうのが解っていたから聖さまは呼びたくなかったし、出来るだけ会わないようにしていたのに…。
会わないでいればいるほど、こんなにも切なくって・・・泣きたくなってくる・・・。
顔が見たい…声が聞きたい…ふざけてでもいいから触れてほしい。
そんな想いが会えない時間に比例しているみたいで・・・。
想像するのはいつもキミの事・・・。
どんなに離れていても、繋がる想いなんてのはあるんだろうか?
永遠なんてものがこの世に存在しないのは知ってるけど、それでもそれを探したくなる。
そんな時は決まって祐巳ちゃんとの未来を想像して、祐巳ちゃんと繋がる永遠を探したくなったりして・・・。
祐巳ちゃんのピンチの時にはいつでもどこでも一番に駆けつけたいし、少しでもいいから力になりたい。
でも、それが返って迷惑になっていやしないだろうか?私はまた距離を間違えてはいないだろうか・・・?
自由でいたいと思う・・・でも、自由すぎるのは逆に残酷だとも思う。
孤独に支配されて、周りを見ても誰も居なくって・・・でもそれは自分が気付いていないだけで・・・。
こうやって川の流れを見ていると、人の心もこんなものなのかな?なんて思うことがよくあるけど、
サラサラと流れてしまうだけの心ならば、私はいらない。
どんな風にも流れにも動かされないような、そんな心が欲しい…。
何にも縛られずに・・・でも、愛しい人だけを想えるような・・・そんなしなやかな心が・・・。
誰にも知られたくない・・・知られちゃいけない・・・。
お姉さまには私が聖さまに抱いている感情を知られるわけにはいかないと思う。
きっと、お姉さまは怒るだろう・・・どうしようもないぐらい私を叱って・・・そして自分を責めるだろうから・・・。
お姉さまが落ち込んでしまうのを見るのは、私も苦しい・・・。
虫のいい話かもしれないけれど、お姉さまの事も、本当に大切だから・・・。
だから、聖さまを想うこの気持ちにしっかりと鍵をかけて、大事にしまっておきたいのに、
どうしてこんなにも溢れてくるんだろう。
目を閉じると聖さまの顔をすぐに思いだせてしまう…耳を塞げば声が聞こえる・・・。
いくら振り払おうとしても、いくら忘れてしまおうと思っても、輪郭や声は強くなる一方で・・・。
気がつけば今聖さまは何してるんだろう?とかどこに居るんだろう?なんて考えてしまっている自分。
お姉さまが隣に居ようが、居まいがそれは関係なくて・・・そんな私の態度にお姉さまだってきっと戸惑っている。
逆の立場なら…私はきっと嫉妬するだろうから…あの雨の中、瞳子ちゃんにぶつけた感情のように・・・。
あの時初めて自分の気持ちが解った。ずっと胸の中にあったモヤモヤの原因を。
差し出された傘…しっかりと抱きとめてくれる腕…優しくて切ない声…全てがあの時…。
いつかは伝えたいけれど、どうやって伝えればいいというの?
祐巳ちゃんが私の事を今どう想っているのか知らない。全く解らない。
ただ、一つ言えるのは好意は持ってくれているだろうとは思う…先輩として、友人として・・・。
それ以上も以下もない…ただそれだけ…そんな所に付け入る隙があるとは思えない。
確実な手ごたえがあってからでないと、私は動けない・・・。
自分でもズルイと思う・・・醜いと思う・・・それでもっ!・・・そうしないと私はここから動けそうに・・・ない・・・。
追いかけて追い詰めて…壊してしまうよりは、その方がよっぽどいい。
今まで通り、遠くからそっと見守ってるだけでもいい。たまに私を思い出してくれればいい・・・。
・・・なんて・・・そんな事を思えたらどんなに楽だろうか・・・。
そんな事を思えるほど私は大人じゃないし、泣いて抵抗するほど子供でもない。
大人でも子供でもない、微妙なラインをゆらゆらと彷徨うだけの私は、祐巳ちゃんの前でだけ実体を保てる。
彼女の前でだけ、昔夢にまでみたヒーローになれるのだ・・・。
・・・ねえ、だからお願い・・・
もしも両想いなら・・・幸せなのかな・・・?
いつかはお姉さまも卒業してしまって、私達は皆バラバラの道へと進みだす。
その時、私は誰と居るんだろう・・・?どうしてるんだろう・・・?
自分の未来を見たいとは思わないけれど、誰と居るのかが知りたい・・・。
誰と居ても幸せにはなるだろう・・・でも、それがあの人なら・・・。
愛しすぎて悲しい別れを経験した聖さま…「会わない方がいいから・・・」と言っていたっけ・・・。
そんな聖さまを見て、私は栞さんが羨ましくてしょうがなかった。
それほどまでに自分の事を愛してくれる人なんて、きっとそうは居ないと思うから。
自分から愛するなんて事、私にはまだ解らない・・・でも、聖さまが居なくなってしまうのは・・・耐えられそうに無い。
…出来るならずっと傍に居たい…その心に触れていたい…。
あの人に愛されたい・・・聖さまの愛が欲しい・・・だから、お願い・・・。
祐巳ちゃん
「だから、お願い・・・ どうか・・・私の名前を呼んで・・・」
聖さま
私を呼んで・・・その声で。
いつもの笑顔をこちらへ向けて・・・。
そしてずっと、離れないで。
ずっとずっと傍にいて・・・。
いつまでもずっと、私を呼んで?