空高く馬こゆる秋。秋と言えば遠足でしょう!!
…てゆうよりも、今はすっかり冬ですよ白薔薇様…。

白薔薇様のその一言で山百合会秋の遠足大会は実施される事になったのだ、が。

「…聖様?あの、聞きたい事があるんですけど…。」

「んー?苦情以外ならなんでもうけつけるよ。」


昨日の夜ちょうど晩御飯を食べ終わり、大好きなドラマを見ているとかかってきた突然の電話。

どうせ母にだろうと思ってユミは動かなかった。

ところが母は何度も何度も電話に向かって頭を下げると、ユミを呼んだ。

ユミは思わずわたし!?と勢いよく立ち上がり電話に飛びついた。明日は日曜日だ。

もしかして祥子様からのお誘いの電話かも!

などとはしゃいで電話に出ると、あいにくとゆうかやっぱりとゆうか…。

「やっほー、ゆみちゃん元気?」

「…白薔薇様でしたか…。元気もなにも昨日学校で会ったじゃないですか。」

セイは電話の向こうでくるくる変わっているであろうユミの顔を想像して笑った。

きっと祥子からの電話だとでも思ったのだろう。

「そう、私でした。残念だったね、祥子じゃなくて。」

「いえ、決してそうゆうわけではなくて!!」

「いーや。ゆみちゃんは祥子じゃなくってガッカリしてるね。

そんなの顔を見なくてもばればれだよ、ゆみちゃん。」

「はぁ。そうですか。」

ユミの弁護はあっさりと否定されてしまった。

まぁ、セイのゆうことは当たりでもあり外れでもあったのだから,

ここはひきわけが妥当だろう…って何が?

自分につっこみをしながらユミはセイの用件を聞く事にした。

「ところで白薔薇様、何か用時があってかけてきたんじゃないんですか?」

「おお、そうだった!危うく忘れる所だったよ。」

おいおい!電話をかけてきて用件忘れるってそんなサザエさんじゃあるまいし…。

「なんなんですか?もう。」

「いやね、ゆみちゃん明日ヒマ?」

突然のセイの質問にユミは思わず、は?と聞き返してしまった。

「だから、明日はヒマかって聞いてるの。どう?」

ユミはカレンダーを調べた。何のマークもついていない。思いっきりヒマだ。

「ええ、大丈夫ですよ。でもどうしてですか?」

「そう、ヒマなあなたに耳寄り情報があるんだけど…どうする?聞く?」

って、セイの弾んだ声。わざわざ電話かけてきて今更どうする?とか言うかな、普通。

ユミはそんなセイにあきれかえりながら言った。

「…一応聞きます。なんなんですか?耳寄り情報って。」

「うん。あのね、明日遠足に行かない?山百合会でさ。」

「山百合会で!?もちろん行きます!!

…でもお正月みたいについたら二人だったなんてだましはナシですよ?」

「やだなぁ、ゆみちゃん。こないだは結局祥子がいたじゃない。まぁ、おまけとユウキもいたけどさ。」

おまけって…。それは柏木さんの事なんだろうな、きっと。

ユミはあえて何も聞かなかった。この二人が犬猿の仲なのはいわずもがなである。

「わかりました。ただ一つだけお願いしたいんですけど…。」

ユミのあまりにも真剣な声にセイもつられて真剣な声になる。

「うん、何?」

「あの…車だけは勘弁して下さいね。それだけです。」

セイはユミの台詞に苦笑いした。

何を突然真剣な声で言い出すのかと思ったら、そんな事か。

それにしてもそんなに運転恐かったかな?

「大丈夫。明日は電車だから。じゃあ明日、9時にK駅の西改札でねゆみちゃん。」

「はい、わかりました。遅刻しないで下さいね?白薔薇様。」

ユミがそうゆうとセイは「う、うんがんばる。」

となんともあいまいな返事が帰ってきた。それじゃあごきげんよう。

とお決まりの挨拶をすると電話を切り、

自室に帰ろうとすると突然お母さんがユミの裾をつかんだ。

「ゆみちゃん、明日白薔薇様とおでかけするの?

いいわねぇ、お母さんがもっと若かったらなぁ。

前にも思ったんだけど白薔薇様は感じがいいのよねぇ。」

そういえばお母さんは何故かセイをお気に入りだった。

どうやら度々かかって来る電話にすっかり虜らしい。

ユミはなんだかセイの事をほめてもらえるとうれしかった。

あのテスト事件から3日。やたらとセイを意識してしまう。

今の電話だって祥子様かもと思う反面白薔薇様だといいな、と思う自分もいて…。

ようやく母から解放されたユミは部屋にもどるとクローゼットを開け、1人ファッションショーを始めた。

なんだろうこの感じ…。なんだかくすぐったい。


電話を切ったあとやっぱり祥子からの電話を待っていたのかと思うとショックだった。

セイはベッドに転がり机の上に手を伸ばした。手には明日までの水族館の入場券。

その券をじっと見つめる。

もらったのは1ヶ月も前なのだがユミを誘おうかどうしようか迷っている間に期限がきてしまった。

それで慌てて電話をしたのだが、なんともあっさり誘いに乗ってくれたので少し拍子抜けだ。

「結構疑り深くなったよなぁ、ゆみちゃん。」

セイは天井を仰ぎ、ボソリと呟くとクックッと笑いをかみ殺した。

「さて、明日は早いし、そろそろ寝ようかな。って私は小学生か。」

時計を見るとまだ9時過ぎ。まさに遠足前の小学生状態のセイだった。


いつからかなんてわからない…。


翌朝、待ち合わせ時間に遅れまい、と早く寝た甲斐あって相当早くに目が覚めてしまった。

こんなにドキドキする朝は一体どれぐらい振りだろう。

早めに支度をすべてし終えてしまって約束までの時間がまちどうしい。

ビデオのように早送りが出来ればいいのにとさえ思う。

『ゆみちゃんもこんな気持ちならいいのに…。』

セイはそんな事を考えながら時間までただテレビを見ていた。

いや実際には何も耳には入ってはこなかったのだが…。

やがてちょうどいい時間になり、セイはようやく家を出た。


ユミはといえば、昨日だした服をもう一度着ては直し、

着ては直しをくり返しているうちに時間がきてしまい、慌てて家を飛び出した。

K駅まではここからバスで20分ほどだ。それでも今日はその距離が長く感じられる。

『いつもならあっとゆう間なのにな。』

ユミはぼんやりと外の景色に目をやっていた。

やがてバスはK駅に停まり、ユミは慌ててバスから飛び下りた。

「えぇっと西口…西口はっと…。」

ユミはキョロキョロと辺りを見回し、目印を探した。

しばらくキョロキョロしていると看板が見えたのでその看板どうりに目的地を目指した。


早めに家を出たからか約束の時間よりも10分も早くついたセイは,

しょうがないので駅前のコンビニで時間を潰すことにした。

「遠足といえばやっぱりおやつでしょ。」

セイはそう言ってチョコレートやクッキー、飴などをカゴに放り込むとレジへと向かった。

会計を済ませて、待ち合わせ場所にきてみたがまだユミらしい人物は現れない。

『…もしこなかったらどうしよう…。』

その時ふとそんな考えが脳裏を過った。あの時のようにもしユミがこなかったら?

きっと今度こそ立ち直れない…。

セイがそんな考えをいろいろしていると、突然後ろから何かフワリと温かいものが振って来た。

セイが驚いて振り返ると、

そこにはユミがセイの背中にのっかかるようなかたちで覆いかぶさりイタズラな笑みを浮かべていた。

「ゆ、ゆみちゃん!?」

「えへへ。ごきげんよう白薔薇様。どうですか?

驚くでしょう…ってあんまり反応ありませんね。」

ユミはプ−ッと頬を膨らませるとセイの背中からよいしょっと降りた。

どうやらいつもの自分のように驚いてほしかったらしい。

「いや、十分驚いてるよ…。驚いてるけど…。

良かった、こなかったらどうしようかと思っちゃった…。」

そう言って笑うセイの顔はどこか悲し気だった。

ユミはセイの言葉に以前聞いた一年前の出来事を思い出した。

一緒にどこか遠くへ行こうと約束したが現れなかった恋人の話を…。

ユミはセイの見せた悲しそうな顔を見て反省した。

いくら傷が治りかけてるとはいえ、やっぱり今だに辛いのだ。

そう思うと申し訳なかった。

「…遅れてすみませんでした…。

バスを反対側で降りてしまったらしくてここに来るまで迷子になってしまったんです。」

ユミの百面相をみてセイは何かを察したのかユミに突然抱きついた。

「んぎゃう!!」

「んーいい声。もう〜びっくりするじゃないゆみちゃん。心臓飛び出るかと思ったよ。」

「は、離してくださいよ!!本当にびっくりしてたんですか!?

全然そんな風には見えませんでしたよ?」

「驚いた驚いた!驚きすぎて腰ぬけちゃった。

ゆみちゃんがちゅーしてくれたら治るんだけどなぁ。」

すっかりいつもの親父モードを取り戻したセイはユミの頬に唇を近付けてゆく。

ユミは必死になってセイの顔を押さえると涙ながらに言った。

「もう!!こんなことばっかりするんだったら帰りますよ!?」

ユミが少しキツめの言葉で言うとセイは抱きついていた腕の力をそっと緩めるとしょんぼりした。

うなだれるセイがなんだかお母さんに怒られた子供みたいでかわいい。

「ところで白薔薇様、他の皆さんはまだいらしてないんですか?」

するとセイはユミの唇に人さし指をあてるとメッと叱った。

ユミは心臓がドクドクと早くなるのを気付かれないように少しだけ体をずらす。

「外で会う時は白薔薇様ってゆうの止めようよ。

ちょっとはずかしいんだよね。せめて名前で呼んでよ。」

「…名前ですか?佐藤様とか?」

「んーなんかそれもなぁ。名字に様って変じゃない?どうせだから聖って呼んでよ。」

セイの提案にユミはすごい勢いで首を横に振った。

「めっ、めっそうもありません!よ、よびすてなんて出来ませんよ!!」

「じゃあ間をとって聖様でいい?…ふむ聖様か…。

なかなかいいじゃない。御主人様みたいで。えへへ。」

セイはそう言ってじゅるりと涎を拭う真似をする。

しかしユミがキッと睨むふりをするとすぐに頭を垂れた。

「ごめんなさい。冗談です。さて、ゆみちゃん!気を取り直していざしゅつじ〜ん!!」

出陣って…いまから戦いにでも行くのですか?

と思わず聞きたくなるのをグッとこらえ、ユミはセイの後について行った。

セイは二人分の切符を買うとユミの右手に握らせて、もう片方の手をしっかりとつないだ。

ユミはドキドキしながらつながれた手を見ていた。

改札を通り、ホームにつくとすぐに電車はやってきた。

セイはユミの手をひっぱりガラガラの電車の中をみまわすと真直ぐにボックス席へと向かった。

セイはボックス席の奥の方に腰を下ろすとコンビニの袋の中からポッキーを取り出しユミに手渡した。

「どうしたの?座らないの?それとも我慢くらべ?」

セイの言葉にユミは慌ててセイの向かいに座った。

それにしても電車の中でする我慢比べって一体どんなものなんだ?いや、そうじゃない。

重要なのはソコじゃない!話を上手い具合にはぐらかされてすっかり忘れてしまっていたが…。

「…聖様…あの聞きたいことがあるんですけど。」

「んー?なぁに?苦情以外なら何でもうけつけるわよ。」

…苦情以外ってことはもしかして確信犯?ユミはそれでも一応聞いてみる。

「あの、他の皆様は…。」

するとセイは口のはしだけをあげるとニヤリと笑った。

あぁ…この展開、なんだか身に覚えがあるぞ…。もしかしてデジャブ?

いや違う。実際に身に起こった。

あれは確かお正月。そして忘れもしないあの台詞…。

「ひっかかったわね、ゆみちゃん。」

やっぱり。セイはなんだかとてもうれしそうだ。

「私電話で言いましたよね?アレはナシですよって。」

「うん。言った。だから今回は正真正銘二人っきりだよん。」

セイはそう言ってユミの持っていたポッキーを一本とるとおいしそうにもぐもぐと食べ出した。

「もう!そう何度も引っ掛かると思ったら大きな間違いですよ!!聖様!」

セイはユミの怒りの講議にもものともせず、引っ掛かってるじゃない。とケラケラ笑っている。

ユミが頬を膨らませて怒っているのを見てセイは食べかけのポッキーでユミの頬をつついている。

ユミが頬をつつくポッキーににパクンと噛み付きセイの方を見てどうだ!って顔をする。

しかしセイはにっこり笑って一言。

「おいしい?」

セイのその笑顔がとてもキレイで、結局ユミは何も言えなくなってただうなづいただけだった。

やっぱりこの人には勝てない…、結局今回もまたこうして許してしまうのだ。

セイは真っ赤になってうつむき口をもぐもぐさせるユミをみて心から愛しいと思った。

どうしてこの子はこんなにも自分を幸せにしてくれるのだろう…。どうして…。

しばらくするとユミはすっかり機嫌を直して学校の事や友人の事などをあれやこれやと話してくれた。

「でね、由乃さんたら…聖様?…あぁ、ねちゃったんだ。」

ユミはセイの寝顔を見つめた。頬杖をついたまま眠るセイの髪に日が射すとキラキラ光っている。

「こうして黙ってるとこの人すごいキレイなんだよね…。でも中身は中年オヤジ。このギャップがなぁ。」

ユミはそっと手を伸ばすとセイの前髪に触れた。それだけで心臓が今にも飛び出しそうだ。

ユミはセイの前髪をそっと離すと呟いた。

「・・でもいざって時は必ず一番に助けてくれるんだよね…。」

ユミは着ていたカーディガンを脱ぐとそっとセイにかけた。

 どれぐらい経ったのかセイは車内アナウンスの声で飛び起きた。

そして向かいでウトウトしていたユミを軽く揺する。

「ゆみちゃん、次で降りるよ。」




遠足。  前編