想いの重さを量れるとしたら、
きっとキミより私の方が重いはず。
でも、いつかは同じになればいいのにと、
いつもいつも願うけれど、
それはなかなか叶わない。
本当は、気付いていなかっただけなのに。
本当は、同じぐらい想われていたのに。
「ねえ、こうしててもいい?」
セイはユミを後ろからギュウっと抱きしめると、耳元でそっと囁いた。
セイの吐息が耳元にかかって、ユミはもう声すら出せない。
コクリと頷くユミにセイは、ふふ、と笑うと嬉しそうにユミの後頭部に頬を寄せる。
「祐巳ちゃん…あったかい…」
「聖さまも・・・あたたかい…ですよ・・・」
ピッタリと密着した体と体・・・どんどん高まる体温と鼓動…。
耳に感じるセイの吐息に、ユミは思わず声を漏らしそうになる・・・。
なんだか今まで感じた事のないような・・・変な気分。
自分の気持ちに素直になると、溢れて止まらなくなる激情と想い・・・。
「聖・・・さま・・・」
吐息まじりに呟くユミの言葉が、セイの脳を、身体を刺激する。
セイが動く度にピクンと震わせるユミ…そんな些細な事に、いちいち喜びと切なさが込み上げて・・・。
「・・・なぁに?」
「あの・・・私は・・・今とても幸せです・・・」
突然のユミのセリフ。セイは無言で次の言葉を待った。
「大好きな人の体温・・・とか・・・声とか・・・腕とか・・・全てを・・・今私は独り占め出来てるんですから・・・」
「・・・祐巳ちゃん・・・」
今までにユミがセイの事を独り占めしたい、とかそんな事を言った事はただの一度も無かった。
心のどこかで思っていたのかもしれないけれど、それを口に出す事なんて・・・無くて・・・。
だからセイはいつも不安になっていたし、自由にされすぎるとかえって孤独になるという事を知った。
「私・・・本当はずっと・・・こうされたかった・・・聖さまの心が・・・欲しかった・・・全てが・・・私だけのモノでないと・・・」
イヤだった・・・。と消え入りそうな声で呟いたユミ。
「…それは私も同じだよ…祐巳ちゃんが私以外の誰かと話をするのも、触れられるのもイヤだった。
心が、体が、全てが私だけのモノになればいい、なんて本気で願ったよ」
ははは、と照れたようにセイは笑うと、ユミを抱く腕に一層力を込める。
「…恋って…こんなに辛いんですね…どんどんわがままになって欲張りになって…私…どうすれば…」
ユミの声は少し震えていた・・・。きっと、ずっと思ってた事なのだろう・・・。
「今まで、辛かったんだね…。祐巳ちゃんは…ずっと我慢してたの?」
セイの言葉にコクリと頷くユミ。セイがずっと思ってた事と、とてもよく似ている。
自分だけじゃなかったんだ、という安心感とユミが同じ気持ちでいてくれていた事への嬉しさが、
心の中にあった不安の塊を少しづつ溶かしてゆく・・・。
「・・・もう・・・我慢しなくていい・・・もっと・・・求めてくれていいから・・・」
「・・・でも・・・」
ユミが何か言いかけようとするのを、セイは制すと言葉を続けた。
「もっと・・・私を見て・・・私を望んでよ・・・全て・・・あげるから・・・祐巳ちゃんに」
「聖さま・・・わっ、私も・・・同じ・・・気持ちです・・・他の誰にも渡さないから・・・私も・・・聖さまも・・・」
「うん・・・ありがとう」
『誰にも渡さない』
今まで自分の中にしか無いと思っていた感情…それを初めてユミの中に見つけることが出来た。
胸の辺りに何かがギュっと詰まる…呼吸が出来なくなる…。
「祐巳ちゃん・・・触って・・・いい?」
セイがユミの耳元で囁く・・・ユミはほんの少し間を開けてから、ゆっくりと頷いた。
ユミのお腹のところに置いていた右手を、ゆっくり動かして浴衣の中へと滑り込ませる・・・。
「ひゃんっ」
冷たさのせいかどうかはわからないが、ユミは小さな叫び声を上げるとピクンと体を震わせた。
「冷たい?」
「ん…」
何かに耐えながらセイの問いに答えるユミは、どうしようもなく可愛くて…。
指をユミのすべすべの肌にそっと添わせながら、小さな胸を目指す・・・。
「痛かったら・・・言って・・・」
返事もせずに、ユミは首だけを動かしている。どうやらそれどころでは無いらしい。
そっと、手のひらで包むようにゆっくりゆっくりと、ユミの胸を手のひらの上で転がすと、
それに合わせてユミから吐息が漏れる。鼓動がセイの手にも伝わるぐらい早い・・・。
でも、それはセイも同じだった。
今までこんな事をしたいなんて思ったことも無かったものだから、初めての事に少し戸惑っているというのが本音。
どうすればいいのか、なんて知らないし、どこを触ればユミが喜ぶのか、なんて全く解らない。
でも不思議なもので、何となくどこをどうすればいいのかは解るような気がした・・・。
ドキドキする所を触れば、きっとユミもドキドキするはず。そんな妙な自身があった。
セイは、少しドギマギしながらユミの胸のてっぺんの小さな突起を探す。
「ん・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」
・・・どうしよう・・・頭が・・・ボー・・っとす・・・る・・・
どうにか理性を保って、意識しなければ変な声が出てしまいそう・・・。
ユミはギュっと目を瞑って、そのくすぐったいような、痛いような感覚に必死に耐えていた・・・。
「・・・声・・・出して・・・我慢しなくていいから・・・」
カチンコチンに固まっているユミに、セイは耳元でそう囁くと、そのままユミの耳をペロリと一舐めする。
「んぁっ・・・はぁ・・・や・・・ぁ・・・だ・・・めぇ・・・」
ユミの体はビクンと大きく痙攣したかと思うと、次第に息が上がってゆく・・・。
可愛くて、愛しくてしょうがない…もうどうしようもなく溢れる想いを、セイは止められなかった・・・。
耳から首筋…背中へと徐々に舌を這わせて、ユミの反応を見る。
「ぁ・・・はぁぁ・・・んう・・・ッ・・・ふぁ・・・」
セイの舌から逃れようと、ユミは必死に身をよじるけれど、胸を弄ぶセイにガッチリと掴まれて思うように動けない…。
セイはユミの胸を揉みながら、人差し指で胸の突起をかるくさすった。
すると、ユミの突起は次第に固く熱くなってその存在を主張し始めた・・・セイは咄嗟に固くなったソレを軽く摘み上げる。
「あぅ・・・ッ」
ユミは体を大きく仰け反らせると、枕をギュっと掴んで何かに耐えた。
舐められたり触られるような感覚とはまるで違う…電気が体中を走っていくような・・・そんな感じ・・・。
「祐巳ちゃん・・・気持ちいい・・・?」
柔らかく、妖艶なセイの声が、ユミの体を余計に刺激して…指は相変わらず胸の突起を転がして遊んでいる・・・。
「んぅ・・・わか・・・っ・・・な・・・はぁ・・・ん・・・い・・・ぁあ・・・」
切なそうな声を出すユミに、セイは満足げに微笑むとユミの腕をグイっと掴み仰向けにさせた。
「やぁ・・・みな・・・いで・・・」
茶色い電球が2人を照らし出す・・・セイは、ユミの体をじっと見つめると小さな胸の間にそっと顔を埋めると、言った。
「…好きだよ…祐巳ちゃん…私も…キミにしか…反応しないんだ…心も…体も…」
そう、心も体もユミにしか反応しない…かつて愛した恋人にさえもこんな感情は抱かなかった・・・。
「・・・っ・・・あ、あた・・・っ・・・しも・・・」
ユミはそう言って、体を小さく震わせながらギュっとセイの頭を抱え込んだ。
セイの吐息を胸に感じる・・・それだけで心が溶けてしまいそうになる・・・。
「・・・祐巳ちゃん・・・」
セイはゆっくりと顔を上げると、そのままユミの口を自分の口で塞いだ。
初めは軽いキス…徐々にセイの舌がユミの中へと入ってくる…ユミの舌に絡ませるように…優しく…時に激しく…。
「ん・・・っむ・・・はぁふ・・・んぅ・・・んっく・・・んむ」
ユミの濡れた瞳と、零れ落ちる声が、セイに激しさを求めてくるようで・・・。
セイはそっとユミの唇から唇を離し、そのまま首筋…鎖骨…そして胸へと舐めおろした・・・。
下へ下へと行くに従って、ユミの体の痙攣は大きくなって…喘ぎ声もその音量を増した。
セイの舌が胸の突起を舐めて、吸う…甘く噛んだ後・・・また舐める・・・。
「あぁ・・・っあ・・・んう・・・っく・・・ふぁぁ・・・んぁぁぁ」
ビクンビクンと大きく揺れるユミの身体…その動きに合わすように滑るセイの舌・・・。
と、その時だった…突然ユミが腕を伸ばして泣き出しそうな声で言った・・・。
「せ・・・さまぁ・・・わ、わたし・・・はぁ、はぁ・・・な・・・んっか・・・へ・・・んぅ・・・」
「・・・何が・・・?ちゃんと言って?どうして・・・欲しいの・・・?」
・・・なんて・・・少し・・・意地悪か・・・
本当はユミがどうして欲しいのか解ってたのに、ついついそんな事を聞いてしまう。
「ぁ・・・から・・・だ・・・が・・・ぅぅ・・・あ・・つい・・・」
「うん?」
「だっ・・・からぁ・・・ふぁ・・・おねが・・・い・・・せ・・・さまぁ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
セイは、ユミの泣きそうな声を聞きながら、ただボンヤリとその切ない表情を見つめていた・・・。
そして、突然思い出す・・・。昼間に聞いた会話の内容・・・。
『可愛かったけど・・・俺は手出せねえな・・・あれは』
『あー・・・うん。なんか飾っときたい感じだよな』
『ん。なんか・・・罪悪感って言うかさ・・・なんか・・・な?』
・・・どうして・・・こんな時に・・・
「せ・・・さま・・・?」
突然黙り込んでしまったセイに、ユミは首を傾げながら呟いた。
『・・・罪悪感って言うかさ・・・』
・・・罪悪感・・・穢れを知らないお姫様を・・・私は・・・穢してしまう・・・怖い・・・
「・・・ごめん・・・祐巳ちゃん・・・ここから先は・・・」
セイがセリフを全て言い終わらないうちに、ユミが起き上がってセイの身体をギュウっと抱きしめた。
「どうしたんです?何を考えてるんですか…?」
優しい優しいユミの声…その声にセイは思わず泣き出してしまいたくなる。
「ごめん…祐巳ちゃんを…私は・・・穢してしまう…それが…怖い…だから…」
これ以上踏み込むとどうなるか解ってる…きっとめちゃくちゃにしたくなる…。
本当の自分を知られるのが怖かった…ユミを失くすのが怖かった…。
同じ想いでいたと知って、大分救われたのは事実だけれど…どうしても完全には拭い去れない恐怖と不安…。
混沌とした想いがセイの中で渦巻く…。
「ごめん…ね…こんな事なら最初から触れなければ…」
セイが俯いてそう言うと、ユミは両手でパシンとセイの頬を打った。
「それは…違いますよっ…私は…嬉しかったんですから…それに…戸惑いを感じたまま…するのも嫌だし…」
「祐巳ちゃん…でも…私の弱さのせいで…身体…辛くない…?」
「…正直に言えば…身体は…まだ…。でも、心が伴わないのはもっと嫌だから…それに…聖さまは弱くなんてない。
ちゃんと、理性で判断出来るし、激情に任せる事もないから…止められたんですよ…。
私は…止められなかったかも…しれない…恥ずかしいですけれど…。私も怖かった…でも…きっと止められなかった…」
ユミはそう呟いて涙ぐんだ瞳をゴシゴシとこすると、はだけた浴衣の前を直しもう一度セイに抱きついた。
そして…耳元で囁く…。
「愛してます…続きは…またいつか…しましょう…ね」
ユミはそれだけ言うとクルリと後ろを向いて布団の中にもぐりこんでしまう。
一瞬頭が真っ白になった…ユミが何と言ったのかが理解できなかったのだ…。
「ゆ、祐巳ちゃん…?・・・えっ、ええ〜?ど、どうしたの?突然そんな事・・・っ」
きっと今、セイの顔は真っ赤だろう…たまにユミはこんな風に凄い事をサラっと言う。
セイが布団を剥がそうと引っ張ってみても、ユミはがんとして布団を脱ごうとはしない。
「ねぇ…怒ってるの?」
セイは口調を変えて優しく聞いてみる…すると…ユミは頭だけを布団から出した。
「お、怒ってなんて・・・ただ・・・その・・・自分でも何言ってるのか…。
・・・あぁぁ・・・もう・・・恥ずかしいからそっとしといて下さい!」
そう言うユミの顔は、困ったような笑っているような、なんとも複雑な顔だった・・・。
「…ふ…はは…あはは…祐巳ちゃん…可愛い。ふふふ…あははは…すっごく緊張してたのに…私」
セイは、布団の上からユミをパンパンと軽く叩いて笑い転げている。どうやら緊張と恐怖の糸が同時に切れたらしい・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・そんなに笑わなくても・・・
むぅ。と頬を膨らましたまま睨むような視線に、セイはようやく気付いたのかジリジリとユミに近寄ってくると、
あどけない笑顔を浮かべてユミの鼻に軽くキスをしてくれた。
「ごめんね・・・ふふ・・・ありがとう・・・・・・今度はちゃんと・・・最後までしよう・・・同じ気持ちで・・・ね?」
セイはそう言ってゆっくりユミの布団をめくると、ユミを膝の上に抱きかかえてゆっくりと瞼にキスを落とす・・・。
「おやすみ・・・祐巳ちゃん・・・愛してるよ・・・」
そして…最後には甘い言葉と極上のキス…。
「これは…聖さまの魔法…ですか?」
恥ずかしかった気持ちも、モヤモヤした想いも、汚い心も…全てをキレイなモノに代える魔法…。
「さてね、どうかな」
セイは軽く笑ってユミを抱いたまま布団に転がると、優しく頬を撫でる。
「ふふふ…おやすみなさい・・・聖さま・・・」
この人の前でだけは私だってお姫様になれる・・・いつだって・・・。
長かったような短かったような初めての2人だけの旅行…。
海と空と太陽と月、星…全てのモノに囲まれて…得た収穫は…今宵月と一緒に溶けて…。
いつかはきっと、役にたつはず…。
同じ想いだと聞いた時、
手放しには喜べなかった。
キミの中に私を見つけた時、
正直怖かった。
ずっと、壊れているのだと思ってたから。
ずっと、醜いと思ってたから・・・。