沢山の音が公園の中に溢れていた・・・ゲームはまだ始まったばかり・・・こうなったらなんとしても、探し出す!
「とは言ったものの…こうも広いんじゃあな…」
公園内の案内図を睨みつけるとボソリと呟く。
「とりあえず…カトーさんの行きそうな所を探すしかないか…」
とは言ったもののカトーさんが行きそうな所なんて、皆目検討もつきそうにない。
多分あまり賑やかな所へは行かないだろうが、そんな場所を省いても相当歩き回らないといけなそうだった…。
「これは…持久戦になりそう…あぁ〜もう。何でこんな事になったんだろ…とりあえず飲むもの調達してこよう」
この炎天下のの中、飲むものも持たずに歩き回るのは、多分自殺行為と言うものだ。
私は公園の向かいにあった小さなスーパーでスポーツ飲料を買うと、本格的にカトーさん探しを開始した。
「まずは・・・ここから攻めるか・・・あ〜あ、祐巳ちゃんの行きそうな所ならなんとなく解るのにな・・・」
そう、祐巳ちゃんが好んで行きそうな所は大体解る。あの子の事だからきっと、水辺とか凄く好きそう。
そして、ボートとかがあったらきっと乗りたい!とか言うに違いない。
もちろん漕ぐのは私で、祐巳ちゃんは嬉しそうに水に手とかをつけたりしてはしゃいで・・・。
私はそれを幸せそうに見つめて…。
でもあんまりにも祐巳ちゃんが水にばかり構うから、ちょっと意地悪とかするんだろうな。
そんで、最後には怒った祐巳ちゃんが突然立ち上がって・・・ボートのバランス崩して2人して湖に・・・ボチャン…。
あまりにも、その光景が鮮明に想像出来るものだから、つい可笑しくなって笑ってしまう。
・・・それにしても・・・
「何やってんだ・・・っ、私は・・・」
こんな事を想像して、遊んで一人で笑ってるなんて・・・本当にどうかしてる。
多分今、私の顔は相当赤いんだろうな…きっと・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
とりあえず、気を取り直して…まずは湖からにしよう…。
こんなにも暑いんだ…カトーさんだって、きっと少しでも涼しい所を選ぶに違いない。
公園の桜並木を奥へと進むと、両側に広い芝生のスペースが見えてきた。
さすが夏休みだけあって、フリスビーやボール遊びをしている家族連れがよく目立つ・・・。
一応そのスペースにも目をやってみたけれど、その何処にもカトーさんの姿は見当たらない…。
桜並木を抜けると目の前には大きな噴水があった。
キレイな彫刻から、規則正しく水が溢れ出している。
「・・・こんな所も好きそう・・・」
もちろん、祐巳ちゃんが。私はその噴水に近寄ると、その場に立ち尽くした…。
・・・ここにも居ない・・・一体どこへ行ってしまったと言うのだろうか・・・。
私はもう一度ポケットから携帯電話を取り出すと、電波を確認してみた。
「・・・やっぱり圏外か・・・」
はぁ…。
大きな溜息は、暑さとイライラを増幅させる・・・。
・・・会いたい・・・想像の中だけじゃない・・・現実の祐巳ちゃんに会いたい・・・。
会って声を聞いて、体に触れたい・・・暑さなんて忘れるぐらい・・・ドキドキしたい・・・。
例えば・・・この噴水で待ち合わせをして・・・一日中とりとめもない話をするのも悪くない。
さっきの芝生の所でお弁当を広げて、寝転んで・・・また話をする。
話に飽きたら、ここでアイスクリームを食べたりして・・・。
『一口ちょうだい?』
って私が言ったらきっと祐巳ちゃんはイヤそうな反応をするんだろうな。
それでも、イヤイヤ一口くれて。でもきっとそれはバカみたいに甘くて・・・。
私が文句を言うと、祐巳ちゃんはきっと膨れて向こうをむいてしまう。
・・・でも・・・その後姿がとても愛らしくて…きっと私は我慢できずに・・・。
『ぎゃうっ』
いつもの祐巳ちゃんの怪獣の子供の泣き声と一緒に・・・アイスクリームが地面に落ちる・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・今日は私どこかおかしいのかな・・・」
祐巳ちゃんの事をいつも考えてはいるけれど、今日ほど忠実に想像に走った事はなかった。
いや、もう想像の粋を通り超えてこれじゃあ妄想だ・・・。
それにしても、祐巳ちゃんとの甘いデートを妄想してると、どうしてもオチがおかしな事になってしまうのは何故だろう…?
私はアイスクリームが地面に落ちたときの祐巳ちゃんの顔を想像して、思わず噴出しそうになるのを堪えた。
妄想で笑ったりしてたら、それこそ端から見たら気持ち悪いだろうから・・・。
少し、頭を冷やすためにも私は噴水の縁の所に腰掛けるともう一度大きな溜息を落とした。
俯いて、さっき買ったスポーツドリンクの蓋を開けると、喉の奥へと一気に流し込む・・・。
空を見上げると、太陽の光が眩しい・・・そのあまりの眩しさに私は思わず目を瞑った。
「・・・随分喉が渇いてたんですね?」
突然目の前の明かりが、何かに遮られた。それと同時に聞き覚えのある声・・・。
私は恐る恐る目を開けると、光を遮ったモノを確認した。
「うっ…ぐっ…うっ・・・うひひゃんっ!?」
勢いよく流し込んだスポーツドリンクは、あまりの衝撃に喉ではなく気管の方へと流れ込んでゆく。
ごほっ、がはっ、と咳き込む私。それを見て慌てる祐巳ちゃん。
・・・・・ほんもの・・・・?
「こっ、こぼれてますよっ!!聖さまっ!!!!」
しかも、上を向いて固まったままなものだから口の端からドボドボと首筋の方へとドリンクが流れてゆくのが解った。
祐巳ちゃんが慌てて私の手からスポーツドリンクを取り上げると、
持っていたハンカチで私の口の端から首筋までを丁寧に拭いてくれた・・・。
「ごほっ…あ、ありがとう…死ぬかと思ったよ…」
「本当ですよ…びっくりさせないで下さいよ、もう」
祐巳ちゃんは、相当驚いたのか、ふぅ、と小さく呟くと胸を撫で下ろしている。
それにしても・・・なんて間抜けな所を見られてしまったんだろう・・・。
出来る限り祐巳ちゃんの前では格好良くいたいのに・・・。
カトーさん探しをしていたら・・・思いもかけず、宝物を拾ってしまった。
このアイテムをどう使うかは・・・私次第・・・。
ゲームでは簡単にリセットが出来る。
でも、現実ではリセットなんてきかない。
出来る限り良く見せようと努力しても、
それすら叶わない事もある。
それでもキミは、笑ってくれる?
それでもキミは、ついて来てくれる?