こんな事、人に言うのは初めてだった。

でも、受け入れられたのも…初めてだった・・・。

改めて、私は一人ではないのだと・・・気付かされる・・・。



私のお気に入りの場所。

たくさんあるけど・・・今の所はここが一番。

「おはよう、佐藤さん。・・・珍しいわね、佐藤さんが私よりも先に学校にいるなんて」

「おっ!カトーさん、おはよう。・・・まぁ、たまにはね」

そう言って私はまた、視線を外へと移した。

たま〜に。

本当にたまにだけど、運が良ければここから祐巳ちゃんを見る事が出来る・・・。

一方的に眺めるだけでもその日1日の気分が全く違うんだ…なんて言ったら、きっとキミは笑うんだろうね。

「ここからの眺めが一番いいから」

大学の教室の一番後ろの窓際。

直接会いにいけない私と、会いにくる訳がない祐巳ちゃんを結ぶ唯一の場所。

「・・・あっ!!」

「なっ、何よ!?」

突然立ち上がった私に、驚いたカトーさんが目を丸くしてこちらを見ている。

「いや、別に」

・・・祐巳ちゃんだ・・・

ほんの少し…木の間にチラリと見えたツインテール…間違いなく祐巳ちゃんだった。

「・・・もう!やめてよね、びっくりするじゃない」

「あはは、ごめんごめん」

「全く・・・ところでそこから何が見えるの?何かおもしろいもの?」

「んー。私にとっては、ね。カトーさんにとっちゃおもしろくないと思うけど…」

「ふーん・・・佐藤さんにとっておもしろいもの・・・ねぇ」

何だ、何だ?この歯切れの悪い話し方は・・・。

「・・・何?」

「何、って何よ?私何も言ってないわよ」

「いいや、何か隠してるでしょ?」

・・・もしかして気付かれてる・・・?

「別に隠しちゃいないわよ。ただ、本気なんだなぁ、と思って」

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・やっぱり・・・

私はどうしていつも・・・こうやってバレてしまうんだろう・・・。

本音を隠すのは得意になった。あやふやにごまかして、白でも黒でもない所に立つ。

これだけでいいんだから・・・でも・・・本心を隠すのは苦手だった・・・。

どんなに隠してるつもりでもすぐにバレてしまう・・・どうしてだろう・・・そんなに解りやすいんだろうか・・・私は。

「・・・いつから知ってたの・・・?」

私はカトーさんにズイっと近寄ると小声で囁いた。

「ほら、大分前に祐巳ちゃんが雨に打たれてウチに来た事があったじゃない。あの時ぐらいかな…。

でも、確信を持ったのは最近だけど・・・」

カトーさんは、せっかくこっちが小声で話しているのに知らん顔してそのまま淡々と話し続けた。

・・・それにしても・・・そんなにも前から気付かれていたなんて・・・。

「・・・そう・・・」

「何よ、落ち込んでるの?大丈夫よ。他の人には知られてないわ、多分」

「・・・じゃあどうして?」

・・・わかったの・・・?

「どうして…か。どうしてだろう…佐藤さんをもっと知りたいと思ったから…かしら」

私を・・・知りたい・・・?

「誤解しないで頂戴ね。別に恋愛感情じゃないから。ただ純粋に佐藤聖さんが知りたかった。

そうして見てたら佐藤さんの目が誰を追ってるかが解ったってだけの事」

・・・佐藤聖・・・を知りたかった・・・?

18年生きてきて、こんな事を言われるのは生まれて初めてだった。

上辺だけじゃない・・・本当の・・・私を見てくれるんだ・・・この人は・・・。

いや、口には出さないけれど、蓉子や江利子も、きっとそう。

…でも、あの2人は私に気を使ってくれる…とても…優しく…。

でも・・・この人は・・・どうなんだろう。私の本音を、どう受け止めるんだろう・・・。

今、急に加東景に興味が湧いてきた…いや、興味はあったけれど、これほどでは無かった。

「私さ…高校2年の時に、どうしようもないくらい好きな人がいたんだ。でも…その人とは結局駄目になっちゃって…。

それから、もう二度と恋なんてしない…なんて思ってたんだけど…高校三年の秋口かな…祐巳ちゃんに初めて会ったのは」

あぁ、こんなにも淡々と話が出来るほど私の中では祐巳ちゃんの事は当然みたいになってるんだ。

そして…以外にも、栞の事すらこんなにも簡単に話せる・・・なんて、声に出してみて改めて気がついた。

ほんの少し…痛いだけで・・・まだ傷は完全には癒えていないけれど・・・。

「それで?まさか一目ぼれってやつ?」

・・・一目ぼれ・・・まぁ、そうかもしれない。実際話す前に何か直感のようなモノを感じたのだから。

「んー…そうかも…そこからは早かったよ…好きになるの…時間は全くかからなかった」

「へぇ」

へぇ。って…それだけ?止めたりとか、応援とかしないの?…イヤ、別に応援とかしてほしい訳じゃないけど…。

でも…好きなのは同性で…それって…やっぱり…体裁としては良くないんだろうし…。

「…何よ?人の顔じっと見て」

「いや、それだけ?と思って…普通もう少し反応ない?」

「だって、それは佐藤さんの問題だし…ましてや恋愛の事なんて私に聞かれても…ねぇ?」

「…それはそうだけど……言わないの…?」

「何を?」

「…えっと……同性なのに……とか…」

・・・これで引かれてしまったら、ここでお終い。寂しいけれど…終わりなんだろうな…。

「…なんだ、そんな事が理由で今まで周りに隠してたの?佐藤さんって…以外に馬鹿なんじゃない?」

・・・バ・・・カ・・・?面と向かって・・・こんな風に言われたのも・・・生まれて初めてかもしれない・・・。

「だってそうでしょ?好きになるのに理由なんていちいちいるの?同性だから、とか種族が違うから、とかそんなの必要なの?

それとも、異性じゃないと好きになっちゃいけない、なんて決まり日本のどっかにあるの?」

いや、種族は流石にどうだろうか・・・?一応祐巳ちゃんは同じ人間な訳だし・・・そりゃ、たまに子狸みたいで可愛いけれど!

・・・それにしても・・・
カトーさんは、相変わらず表情一つ変えない・・・ほんと、この人は表情が読めない・・・。

だから、私は本音を言うしかない・・・変にごまかしても、全て見透かされていそうで。

「・・・いや、ない・・・けど」

「性別とか、種類とか、そんなのどうでもいいって思える程の人に佐藤さんは出会えたんでしょ?

だったらそれでいいじゃない。それって、凄いことだと私は思うけど」


ソレッテ、スゴイコトダトワタシハオモウケド


そうだ・・・この言葉が聞きたかった・・・。変じゃないよ、って誰かに言ってほしかった・・・ずっと・・・。

…結局、こんな事を誰よりも気にしていたのは、他の誰でもなく自分自身だったんだ…。

私は、栞と別れた時からずっと…大きな大きな殻の中に、自分から入り込んで抜け出せなくなっていたのかもしれない…。

でも、その殻をノックして、誘い出してくれたのが…祐巳ちゃんだった。

だから、今度は自分の力で殻を叩き壊さなきゃならないんだ…きっと。

・・・もっと大きな『外』という殻を・・・。

今の私には、あの頃に無かった大切なモノがある。

蓉子や、江利子、志摩子、他の山百合メンバーだってそうだし…もちろん、カトーさんも…。



私はもう、あの時のように一人では戦わない。









戦火は衰えるどころか、さらに勢いを増していく。


炎に飲まれながら考えるのはキミの事・・・そして、仲間の事。


でも、決して諦めない。自分で放った炎なら、最後まできちんと見届けてやる。


それで、もし、戦いに敗れたら、私は潔く炎と共に去ろう。


それが、どんなに苦しい業火だとしても・・・。





PARTY