どうして気づかなかった?
どうして気づけなかった?
あの時、気づいてたらこんなにもこの子が傷つく事はなかった?
私はこんなにも苦しまずにすんだ…?
今、助ければ私の好感度はあがるだろうか…?
そんな打算的な考えにもすがりたくなる程、キミが好き。
でも、もう一方では体が勝手に動くのだからしょうがない、とゆう想いもある。
汚くて醜い感情はどこまでいってもセイにつきまとった・・・。
いや、そもそもそうゆう感情を誰が醜いと決めたのだろう。
それは、他でもないセイ自身だった。
自分で作ってしまった枠は、そう簡単には壊れない事をセイはよく知っている。
でもその先に何があるとゆうのか。きっと見たくない真実や、辛い現実が待っているだけに違いないのに…。
その日は朝から雨だった。
梅雨なのだからしょうがないのかもしれないけれど、こう毎日降られたんじゃいいかげん憂鬱になってくる。
友達の輪の中にいても、いつもセイは一人取り残されてしまう…。
話題についていけないわけではなかったけれど、何か違う…絶対的な違和感…。
ここに居るべきじゃないのかな?
真剣にそんな風に悩んでしまうのはきっと、今が雨ばかりの梅雨だからだ。
セイは自分にそう言い聞かせると、色とりどりの傘の群れからほんの少し遅れて歩いた・・・。
「そうね。祐巳、そこまで一緒に帰りましょう」
なんて…帰れるわけがない。
こんなにも仲の良い2人にどうやって混じれとゆうのか…ユミは泣き出しそうなのをグッと堪えると静かに首を振る。
「いいえ」
ユミの中の嫉妬はどんどん膨れ上がり、やがて頂点へと達した・・・。
いくら姉妹だからと言って本当の血縁には勝てない。そんな事ぐらいユミはわかっていた。
約束を破られたのはいい、その理由をただ聞きたかった・・・なのに誰も教えてくれない・・・。
もう、こんな関係は続けられない…ユミは本気でそう思った…。
逃げたい…もう、どうしていいのか分からない…誰か……たすけて……。
その時だった…一人の人物が突然脳裏を掠めた…。
いつだって困った時には手を差し伸べて、優しく時には厳しく包んでくれる…。
とてもキレイで、でもたまにとても冷たい表情をする・・・あの人・・・。
ユミのこんがらがった頭の中にフっと現れた人・・・それはサチコの顔ではなく、セイの顔だった…。
・・・会いたい・・・
どうしてかはわからない。ただ逃げ場が欲しいのか、それとも・・・。
「もう、いいんです」
…言ってしまった…これだけは言ってはいけないと分かっていたのに…。
ユミはうつむくと、そのまま傘もささずに走り出した。
「あっ、祐巳さま!?」
背中でトウコの声がする…でもユミは立ち止まらない…いや、立ち止まれなかった。
少しでもその場から離れたかった…。
『心の中のもの、ぶちまけてもいいよ』
セイの言った、あの一言が今鮮明に脳に蘇る・・・。
ねえ、聖様…今でもまだ間に合いますか?まだ聞いて下さいますか…?
ユミは溢れ出す涙を拭いもせずに、ただ走り続けた。
鞄も制服も髪も顔も、雨と涙でグショグショ…でも不思議と気にならなかった。
もう、そんな事はどうでも良かったのだ・・・。
…どうしてこんな事になってしまったのだろう…
事の起こりはそもそもなんだったのか…。
梅雨の合間に珍しく太陽が顔を出したあの日…全てが始まった…。
「ごめんなさい」
「はい?」
突然サチコが謝るものだからユミの頭に沢山の疑問符が浮かんだ…。
そもそも今日のサチコは少し変だった。
昼休み、いつもなら薔薇の館で時間を潰すのに今日は「祐巳、ちょっと」なんて言って外に誘い出してきた。
初めは2人で散歩だ、などと喜んでいたユミもさっきの、ごめんなさい、を聞いて全てをのみこんだ。
違う、散歩なんかではない、と。
「実はね」
「は、はいっ」
サチコのあまりにも重い空気にユミは思わず息を呑む。
「遊園地へ行くという話しね、できれば来週の延ばしてもらえると助かるんだけれど」
「え?は?」
遊園地…とはアレだろうか・・・流れ流れになってしまった話の事だろうか?
ホワイトデーのお返しに半日デートする約束をしたあの遊園地の事なのだろうか…?
「どうかしら」
まだ思考回路のつながらないユミをよそに淡々とサチコは話を進めてゆく。
「あ、はい。構いませんよ。そんなことでしたら」
サチコの重い空気から想像していた話とはまるで違っていて、ユミはホッと胸を撫で下ろす。
「いいの?ああ、よかった」
以外にもあっさりと承諾したユミに、サチコも安心したように胸を撫で下ろした。
「祐巳は、聞き分けがいい妹で助かるわ」
何気なく言ったサチコの一言がユミの胸にチクリと刺さったが、
そんな事よりも今、ユミの頭の中は大した話ではなくて良かった。
と、それだけで一杯だった・・・。
まさか、こんな些細な事があんな事態にまで膨れ上がるとは知らずに…。
期待していた遊園地は、結局次の週もその次の週も実現する事なく、中間テストの最終日を迎えてしまった。
けれど、明後日の約束がある。
それだけでユミの心の中は幸せで一杯だった・・・。
大好きなお姉さまとのデート…そんな事を考えると無性に嬉しくなった。
…でも…何かひっかかる…幸せなんだけれど、何かが足りない…そんな感じ。
ユミは何かを思い出すように目を閉じてみた。
目を閉じて一番に浮かぶのは、大好きなサチコの顔。
しかしその輪郭は次第にぼやけて消えてしまい、その代わりに何故かセイの笑顔が浮かぶ…。
ユミは必死でセイの笑顔を振り払いサチコの顔を思い出そうとするが、いかんせん。
次から次へとセイの顔ばかりが浮かんでくる・・・。
笑顔から少し怒った顔へと変わり、意地悪な笑みへ。
そして最後にはフっと目を伏せたセイの切ない表情にたどりついてしまう…。
すると幸せだった心の中が一瞬にして苦しくなり、ユミは思わず胸を押さえた。
けれど、不思議な事にさっきまでの何かが足りない感じはなくなっていた・・・。
何かが引っかかって上手く自由になれないのは、今だその羽を休めたままだからなのだろうか・・・。
あなたの笑顔は私を幸せにする。
あなたの怒りは私を不安にさせる。
あなたのジョークは私を笑わせる。
あなたの切なさは・・・私を苦しめる・・・。