これからどうなるのか分からない。
それでも、少しでも近くなりたいと願うのはわがままだろうか・・・?
理想のように見えるあの人達には敵わなくても、
あんなカタチに誰かと近づきたい・・・。
「戻ろうか・・・」
「ええ、そうね・・・先に行ってちょうだい・・・」
ヨウコはセイの背中を軽く押すと先に戻るよう促した。
セイもコクリと頷いてそれに従う。
「・・・ただいま・・・どうしたの?祐巳ちゃん・・・」
部屋に戻り、襖を開けるとその前でユミがちょこんと正座して待っていた。目に涙をためて…。
「しぇいしゃまぁ〜わっ、わたし・・・かえっちゃったかと・・・」
どうやらユミはセイが突然居なくなったものだから、帰ってしまったのだと思い込んでいたらしい…。
「祐巳ちゃんを置いて帰るわけないでしょ?」
「れ、れも〜〜・・・」
ユミは上目遣いにセイを見上げると瞳を潤ませる。
セイは思わず視線を外すと顔を手で覆った。
…もう駄目…可愛すぎる…。
セイは皆が見てるにもかかわらずユミに抱きつくと耳元でそっと囁いた。
「…キミを置いて帰れるわけないじゃない…」
…そしてその場で口付けようとしたその時…。
「はい!そこでストップ!!皆見てるわよ?」
「よ、蓉子…」
「そうれすよ〜はずかしいれしょ〜!!」
…お前が言うか!?でも確かにこれは流石に恥ずかしいか…。
「あなたねえ、時と場所ぐらい考えなさい!」
ヨウコはまるで何かがふっきれたのかいつも通りにセイに接してくる。
「…うん…ごめん」
…どうして私はこんなにも無神経なのだろうか…?セイがしゅんとしてしまったのを見てヨウコは苦笑いする。
「やだ、何落ち込んでるの?もしかして私に気をつかってるの?」
「いや、そうゆう訳じゃないけど…」
そうゆう訳じゃない、といいつつセイは俯いたまま顔を上げようとしない…。
「ちょっと止めてよ。あなたらしくもない。それに今まで通り接してくれなきゃ…元に戻れないじゃない…」
ヨウコは語尾を小声で、誰にも聞こえないよう小さく呟いた。
はっきり言ってなんて虫のいい、と正直思った…。あんなにもはっきりと振ったくせに友達でいようなんて・・・。
なんて勝手なんだろうと…。でも私がこの人と築き上げた友情はそんな事で壊れるモノではなかったんだと、思った。
これ以上何を望むんだろう…これ以上何を欲しがるとゆうの?
甘い言葉も、その眼差しも私には向けられる事はこれからもきっと無い。
でもそれにも負けない程かけがえのないの無いモノを私は知らない間に沢山もらってた…。
抱きしめられた時、セイの心臓の音がすぐ近くで聞こえた…。
セイの早い鼓動を聞いた時、あぁ、これでいいんだ、って思った。
一見聞くと無神経な言葉は私への一番の言葉だったんだと。私はセイを分かったつもりでいた…。
でも私よりも本当はセイの方が私の事を分かっていた。それぐらい私の事をちゃんと見てくれていたんだ…。
ヨウコはセイの背中を軽く叩くと言った。
「ほら!シャンとなさい!!佐藤聖!」
サトウセイ。一番の親友で唯一の想い人だった人…。
しょうがないから、これからもあなたの物語には登場してあげるわ。
あなたがいつか言った嫌いだと言ったこの強さ。
…今はとても好きだから…。
沢山のモノに背を向けてきた・・・。
その中にはきっと、かけがえのないモノもあったに違いない。
でももう遅い・・・。時間はもう戻らない・・・。
それならば、今両手に持ってるモノだけは大事にしたい・・・。
だから無茶な事だって分かってても言わずにはいられなかった。
君に抱く感情は恋愛では無かったけれど、確かに私は君を愛しているんだって・・・。
・・・知って欲しかった・・・