話したい事が沢山あります。

大切なあの子を奪ったあなたに・・・。

言いたい事が山ほどあります。

大好きなあの子をさらったあなたに・・・。

恨みつらみではありません・・・。

だからどうか聞いてください。

私の想いを・・・。




「「ごきげんよう」」

皆待ってましたと言わんばかりにセイにグラスを手渡し次から次へと注いでゆく・・・。

「…車で来なくて正解ね…」

ヨウコは隣の席を空けるとセイにそこに座るよう促した。

「うん。こうなる事わかってたからね」

セイはそう言って苦笑いをうかべると、注がれたビールを一気に飲み干した。

「じゃあ私はあっちに行きますねー」

それまでセイに抱っこされていたユミはセイの膝から降りるとヨタヨタとサチコの隣に収まった。

サチコは少しだけ以外そうな顔をしたが、やがて満面の笑みになる…。

ほんの些細なことだがサチコにとってはとても重大な事だった…。

ユミが自分の意思でこちらの席へ戻ってくるとゆう事が…。

「・・・いいの?離しちゃって・・・」

ヨウコはそんなサチコの笑顔に目を細めながらセイに問う。

「ん?ああ祐巳ちゃんの事?そりゃあ大好きなお姉さまだからね、私は敵わないよ」

セイはそう言って唐揚げを口の中に放り込むとケラケラと笑っている。

「そんなものかしらね?」

「そんなものよ。こればっかりはどうしようもない事に最近気づいたんだ。誰だって大切な人は一人じゃないって事をね」

…誰だって大切な人は一人じゃない…以前のセイならそんな事口にはしなかっただろう。

…とても独占欲が強かったから…でもユミと付き合ってゆくうちに一つ思った事がある。

人は自分の本をそれぞれ書いていて、そこにはいろんな人が登場するのだと。

その本がずっと一人称で進んで行く事などありえないのだと・・・。

「あなた・・・少し会わない間に随分と・・・」

ヨウコはそこまで言って言葉を切った。半年振りぐらいに会った親友はとてもたくましく輝いて…。

電話では分からないその光は確実にセイを成長させていたようにも見えたし、さらに魅力的になっていた…。

「随分と何?気になるじゃない、そんな所で話止めないでよ」

「…なんでもないわ…ところで聖、どうして皆に祐巳ちゃんの事黙ってたのよ」

「あー、バレたよねーやっぱり・・・」

そりゃバレるだろ、あれだけ堂々とキスをしておきながら疑わない方がおかしい。

まぁ、そもそもバラしたのは他でもないヨウコなのだが。

「なんかさぁ、恥ずかしいじゃない。改まってお付き合い始めましたとかってさ…そう思わない?」

「・・・そうかしら・・・?でも祐巳ちゃんは言ってほしかったんじゃないの?」

「そうなの!?全然気づかなかった…じゃあ今から言った方がいいのかな!?」

セイは持っていたお箸をポロリと落とすと大げさに驚いてみせた。

「・・・もう遅いんじゃない・・・?」

「・・・そっか・・・あっ!コラ!祐巳ちゃん!!それは脱いじゃダメ!!!」

セイは向かい側でキャミソールすら脱ごうとしているユミを止めると、サチコと苦笑いしている・・・。

「聖様が来てくださって助かりましたわ。私一人ではどうにも・・・」

サチコはそう言ってご機嫌なユミの頭をなでなでしている。

「いや、私が来ても大して変わらないと思うけどね」

良かった…割と普通に話せる…セイは心の中で安堵のため息をついた…。

やっぱりこうやって面と向かって話をするのは未だに緊張してしまう…。

一度は和解したもののやっぱり二人の間に出来てしまった距離はなかなか埋められないでいたのだから。

「祥子…あのさ…」

セイが何か言いかけたその時だった。

「しっ、志摩子さん!?だ、大丈夫!!??」

それまで仲良く2人の世界に入っていたノリコが突然大声を出した。

皆、何事?と思わずそちらの方を見て思わず固まった・・・シマコの目が完全に据わっていたのだ…。

「…志摩子に飲ませたの…?」

セイはゴクリと息を呑むと座ったまま後ずさった。

「なっ、何?何で逃げるのよ?」

「いやぁ〜ごめんね、志摩子は私には止められないなぁ〜・・・」

「・・・どうゆう事・・・?」

「いやさぁ、昔から言うじゃない?大人しい子程キレると怖いってさ…」

・・・どうゆう事だろう・・・一体何が始まるとゆうのか・・・。

「お姉さま!!」

「はっ、はい!」

「ちょっとそこにお座り下さい」

「・・・はい・・・」

シマコはそう言ってセイを自分の前に座らせると、突然お説教を始めたのだ。

「大体お姉さまはいつもいつも祐巳さんに迷惑ばかりかけて!!そんな事ではいつか愛想をつかされてしまいますよ!?

ねえ?祐巳さん?」

「んー?愛想ー?つかさないよーらいじょーぶらいじょーぶ!!」

ユミは満面の笑みでそう言うとセイの肩をポンポンと叩いた。なんだか今のセイは飼い犬とご主人様のようになっている…。

「…ん、ありがと…」

セイはうな垂れたまま涙声で呟いた・・・。

「・・・憐れだわ・・・」

ヨウコがポツリと呟くと他の皆も同意したようにコクコクと頷く。

「…なんて優しいの!!祐巳さんたら!!!

もし言いたい事があるなら今のうちに言ってしまった方がいいわ、祐巳さん!何かない?」

シマコはハンカチで涙を拭うとキッとセイを睨みつけた。

するとセイはその視線にビクンと体を揺らすと恐々ユミの顔を見つめた…。

「んんー?言いたい事〜?そうれすれ〜…大抵の事はなれちゃいましたれ〜」

「じゃあ何も言うことは無いと言うの!?」

「はい!ないれ〜す!!せいさまいいれすね〜?こんなに優しいいもうとできてーーー」

「・・・そ、そうかな・・・?」

「ああぁぁ…祐巳さん…これからもお姉さまの事よろしくお願いします…これでもう何も思い残すことは…」

シマコはそう呟くと今度はノリコの方に向き直り・・・にっこりと笑った・・・。

「次は乃梨ちゃんね・・・ふ、ふふふ…」

「い、いや、私はいいかなーー・・・」

「ダメよ乃梨子・・・逃がさないわよ・・・」

そっと離れようとするノリコの腕をシマコはガッチリ掴むとユミとはまた違う満面の笑みを浮かべた・・・。






本当に言いたいのはそんな事じゃないの。

大好きなあなたはとても寂しがりやで、

とても臆病だったからずっと心配だった・・・。

でも、もう心配する事はないみたい・・・。

あなたには素敵な相手が見つかったのだから・・・。

山百合同窓会  第五話