ねえ、あなた本当に変わったのね・・・。
私じゃ全然敵わなかったんだって・・・今心の底からそう思うわ。
でもね、私はあなたと過ごした時間は大切な宝物だったって・・・
今なら言える・・・。
完全に酔っ払ってしまっているユミはサチコ、ヨシノを襲い満足気に微笑んだ。
「楽しいですねっ!蓉子様っ!!」
「え、ええそうね…祐巳ちゃんはとても楽しそうね・・・」
ヨウコは涙ぐんでいるサチコを見て苦笑いする…。
なるほど、これは2人きりで飲みに行くには相当勇気がいるかもしれない…。
「お、お姉さま…聖様は来られるのですか…?」
サチコは這いずるようにしてヨウコに近寄ってきた。
「ええ、今から来るそうよ…どうして…?」
「いえ、少し話したい事がありまして…そうですか…来られるんですね…」
「・・・ええ・・・」
…話したい事…一体サチコは何を今更話すとゆうのだろうか…?
あの時、サチコは泣きながら電話をしてきて言った。ユミはもう自分の手には届かない所に行ってしまったのだと…。
私の何がいけなかったのか・・・と。
別にサチコが悪いわけではないわ、ただ恋愛と姉妹は別なのよ、と私は簡単に言った。
・・・その相手がセイだったとも知らずに・・・。
前から確信があったわけではなかったが、なんとなく2人の間に感じていた違和感…。
少し考えれば分かったはずなのに、どうしてあの時はそれが出来なかったのだろう…。
いや、ただ認めたくなかったのかもしれない。またシオリのときの様に親友を取られたくなかっただけなのかも…。
でも、本人の居ない今ウダウダ考えていても仕方がない・・・。会えば何か分かるかもしれないじゃない・・・。
ヨウコは自分にそう言い聞かせると持っていたカクテルを飲み干した。
甘酸っぱくて後味はとてもさっぱり…エリコは一体どんな気持ちでこれを私に渡したのだろう…。
「う〜…あっつ〜〜〜い!!」
それまでニコニコしながらノリコを突っついて遊んでいたユミは、突然立ち上がるとおもむろに着ていた上着を脱ぎ始めた。
「ゆっ、祐巳!?こ、こんな所ではしたないわよっ!!」
サチコが慌てて脱ぐのを止めようとするが、酔っ払い相手に何を言ってもムダだ…。
ユミはサチコの言い分を無視してあっという間に薄いキャミソール一枚になってしまった…。
「…どうしましょう…このまま全部脱ぎだしたら…」
レイはエリコの腕をがっしり掴むとなみだ目で訴える…。
「そうねぇ〜…聖に一発ずつ殴られるぐらいかしら…」
エリコはう〜ん、と腕組をしながらそんな事を言うものだからレイはもう真っ青だ。
「と言うよりも悪いのはあなた一人なんだけどね…」
ヨウコはそんなエリコに目をやりボソリと呟くと、隣で転がっていたヨシノがガバッと起き上がりエリコに掴みかかった。
「そうですよ!!全部江利子様のせいなんですよ!?分かってるんですか??」
「う〜ん、そんな事言われてもお酒の席だしねぇ…無礼講でしょ?」
「なっ、何が無礼講!!!!分かりました…祐巳さん…江利子様がキッスしてほしいって、お口に!やってさしあげて。
私が抑えてるから!ね?」
ヨシノはそう言って後ろからエリコの両腕を捕まえた・・・。
「ちょっ、ちょっと…?ほ、本気?ゆ、祐巳ちゃん?今のはウソよ?ねっ?いい子だから…ちょっ、よ、蓉子…」
流石のエリコも口にされてはたまらないと思ったのか、必死な顔でヨウコに助けを求める・・・。
「知らないわよ。無礼講なんでしょ?聖に殴られなさい」
「ひっ、ひど…ゆ、祐巳ちゃん…ス、ストップよ!!」
ジリジリと祐巳はもう目と鼻の先まで迫ってきている…ダメだ…このままじゃ本気でやられる…。
エリコがぎゅっと目をつぶったその時…ガラリと襖が開き、誰かが入ってきた気配がした。
「・・・何してんのかって聞いていい・・・?」
ドスの聞いた低い声はその場にいた皆を凍りつかせるには十分過ぎるほどの威力を持っている…。
「…聖、早かったわね…車で来たの…?」
ヨウコが恐る恐る顔を見上げにっこりと微笑むが、セイの顔に笑顔はない…。
「まさか…走ってきたの…で?どうゆう事?」
凍りつく空気…ビリビリと伝わる殺気…。
もう、誰か一人ぐらい殺されても文句は言えないだろう…とゆう空気を破ったのは他ならぬユミだった。
「あ〜せいさまら〜!おっそいれすよ〜〜」
「ゆ、祐巳ちゃん!!いっ、今は・・・」
ダメ!ヨウコがそう言ってユミを止めようとしたが、ユミは伸ばした腕をスルリと抜けてセイの元へと行ってしまった・・・そして・・・。
「・・・祐巳ちゃん・・・楽しい・・・?」
セイは走り寄ってきたユミを抱きとめると無表情で言った。
「はい〜!楽しいれすよ〜!皆さんにキスして回ってたんれすよー」
「・・・キス・・・?」
言うな!それ以上言うな!!そこに居た誰もがそう思った…きっと…。
「ふ〜ん、そうなんだ…キスして回ってたの…」
セイはグルリと周りを見回すと一人一人の顔を順番に眺めてゆく・・・。ヤバイ…完全に怒ってる…。
ヨウコはガックリと頭を下げると雷が落ちるのを覚悟した…ところが…。
「れもね〜口にはしてませんよ〜?お口はせいさまにとっておきました〜!」
ユミはそう言って、背伸びをすると皆が見ている前で堂々とセイに口付けた…。
セイも突然の事に驚いたのか大きく開かれた眼がそれを物語っている・・・。
「えへへーうれしいれすか〜?」
「・・・うん・・・」
セイはそう言ってうつむくとユミの頭をよしよしと撫でる・・・どうやら照れ隠しのようだ・・・。
そしてゆっくりと顔を上げ静かに微笑むと、もう一度周りを見渡す。
「…遅くなってごめん…それと…ごきげんよう…」
話したい事が沢山あります。
大切なあの子を奪ったあなたに・・・。
言いたい事が山ほどあります。
大好きなあの子をさらったあなたに・・・。
恨みつらみではありません・・・。
だからどうか聞いてください。
私の想いを・・・。