ねえ聖?そろそろ本当の気持ちを教えてよ。

今度ははぐらかさず真っ直ぐな言葉で・・・。

今のあなたならそれが出来るでしょ?



「お姉さまは何か祐巳さんに迷惑とかかけてないといいのだけれど…」

シマコは少し困ったように微笑んだ。とゆうのもつい今までヨシノにバレた経緯を一部始終話したからだ…。

ノリコは呆れたように口を開けて聞いていたが、シマコの顔をチラリと見て一言。

「・・・ねえ、本当に志摩子さんのお姉さまなの・・・?」

ノリコの問いにユミとヨシノは思わず笑ってしまった・・・しかし当のシマコは。

「え?ええ、まあ…そうね…素敵な人なのよ・・・?」

と何やら返答に困ったように首をかしげ、ね、祐巳さん?などとユミに振ってくるものだから少し焦ってしまった。

「う、うん。普段はね…そんなに変な人でもないよ」

「そうですか…じゃあ一言で言うとどんな人なんです?」

ひ、一言で言うと・・・?やっぱりここはあれしかないだろう…。

ユミはチラリとヨシノに目をやった。するとヨシノも同じ事を考えていたのかクスリと小さく笑う。

「「計り知れない人!」」

あまりにきれいにユミとヨシノの声が重なったものだからなんだかおかしくてしょうがなかった。

4人が談笑していると、突然後ろのふすまが開き、店員さんが両手いっぱいに食べ物やら飲み物を持って入ってきた。

「お待たせしましたー!!追加の品お持ちしました!!」

「あっ、すみません、そこら辺に置いといてもらえますか?」

「はい!!それではごゆっくり〜!!」

エリコが答えると店員さんは満面の笑顔で帰っていった。エリコはそのトレーを引き寄せると一人づつに配ってゆく。

「何?一体何がはじまるの?」

ヨウコは怪訝そうな顔でエリコの行動に目をやると呟いた。

「私がね、一人一人に似合うお酒をそれぞれチョイスしてあげたの。あっ、勿論乃梨子ちゃんはジュースね!

はいこれ、祐巳ちゃんの」

そう言ってエリコはユミにピンク色のキレイなお酒を手渡した。

「わ、私もですか!?」

「もちろん!!ちなみにそれはイチゴ味だから飲みやすいと思うわよ」

イチゴ味・・・?あっ、ほんとだイチゴの匂いがする・・・。

「ちょ、ちょっと江利子様、祐巳にお酒はちょっと…」

「何よ祥子、私のお酒が飲めないの?」

サチコがすかさずエリコに抗議するが、その抗議はあっさり却下されてしまった。

「い、いえ、そうではなくて!この子本当に弱くて・・・」

前に一度だけ成人祝いにユミと2人で飲みに行った事をサチコは思い出した。

ユミは何も覚えていないと言っていたが、それはもう散々だったのだ・・・。

「あ、あの…どうしても飲まないといけませんか…?私皆さんに迷惑をかけてしまうかも…」

ユミはサチコと飲みに行った日以来お酒は飲むまいと心に決めていた…。

サチコもまた、あなたは外では飲まない方がいいわ、と言っていたぐらいだから相当悪いお酒だったのだろう…。

「大丈夫大丈夫。これだけ人数がいるんだから多少暴れても対処出来るわよ!

祥子もいつまでもふくれてないで!!はい、かんぱ〜い!!」

「「か、かんぱ〜い」」

なんだか訳がわからないといった表情で皆乾杯をするとそれぞれのお酒に口をつける・・・。

しかし、今までメニューを真剣に眺めていたヨウコが青ざめた表情でエリコの襟口をつかんだ。

「ちょっ、ちょっと!?まさかとは思うけど祐巳ちゃんのやつコレじゃないでしょうね!?」

「お〜!!当たり!!さすが蓉子だわ。よくわかったわね?」

ストロベリー・クリーム・・・アルコール度15・・・。

「祐巳ちゃん!!飲んじゃだめ!!」

「・・・へ?・・・」

しかしユミのグラスはすでに空っぽ…あんまりチビチビ飲むのもどうかと思い一気に飲んだのだが・・・。

「…はれ?…なんだかクラクラするんですけど…」

「・・・遅かったか・・・江利子!!どうするのよ!?」

ヨウコは既にぼーっとしているユミを指差してエリコに問いただした。

「いや〜ここまで弱いとは・・・ねえ?」

エリコは口調こそ申し訳なさそうだが、心の中ではシナリオ通りの状況に拍手をしていた。

「…どうなっても私もう知りませんからね…」

サチコは隣で左右に揺れているユミを横目に完全にサジを投げた様子で呟く。

「ね、ねえ祥子…祐巳ちゃん酔うとどうなるの?それだけ教えておいてくれない?」

レイはおろおろとサチコの腕をつかむ。皆もうんうんと頷いている。

「…祐巳が酔うと…?とりあえず抱きつく所から始まって…」

「そ、それで!?」

「確かその後は・・・そう、キスをされたわ・・・」

「「・・・なるほど・・・せまるタイプか・・・」」

2人同時にハモったのはヨシノとノリコだった。

「・・・最後は脱ぎます・・・」

サチコがフッと鼻で笑うのを聞いてレイは青くなる・・・大丈夫だろうか?止められるだろうか・・・?その心配ともう一つ・・・。

「ね、ねえ、祐巳ちゃんって聖様と付き合ってるんだよね・・・?じゃ、じゃあさ、もしキスとかされたらどうしたら言い訳?

やっぱり怒られるのは私達・・・?」

レイの問いにエリコ以外の誰もが固まった。

「わ、忘れてたわ!!本当よ、どうするの!?ちょっと、江利子!!あんた責任取るんでしょうね!?」

こんな事でセイのご機嫌を損ねてしまっては元の木阿弥と言うやつではないのか・・・?

しかしそんなヨウコの心配とは裏腹にエリコは嬉しそうに笑っている。

「だからここで聖を呼ぶんじゃない!そしたら怒られないですむでしょ?さっ、誰か電話して!」

…誰かって…言いだしっぺがしなさいよ・・・。

と言いたいところだがエリコに電話させると余計おかしな事になってしまう可能性がある…。

「おねえさま〜好きです〜」

「わ、分かったわ、分かったから祐巳じっとしてなさい。ね?」

すでにユミはサチコの腕に抱きついて頬擦りをしている…ヤバイわ…すでにユミは出来上がってしまっている…。

ヨウコは、はぁ、と大きくため息をつくと電話を片手にすっくと立ち上がった・・・そして・・・。

プルルルル プルルルル・・・。ガチャ。

「・・・はい?」

以外にも早くセイは電話に出た。

怪訝そうなセイの声…久々に聞いた気がする…声を聞くだけでヨウコの心臓はバクバクと高鳴る…。

「もしもし?私よ、蓉子」

「うん・・・何?」

「卒論の合間に申し訳ないんだけど今すぐ来てくれない?」

ヨウコの問いにセイは少し間を空け、呟いた。

「…悪いけど…行けないよ…」

…ダメだ…なんとゆうか取り付く島もないといった感じか・・・。

そう、と言って電話を切ろうとしたその時…突然腰のあたりに何かがまきついた・・・。こ、これはもしや・・・。

「ようこさま〜?誰にでんわしてるんですか〜??」

思わずゴクリと息を呑むと、辺りを見回した・・・。

すると向かいに座っていたはずのユミがいつの間にか自分の腰に抱きついているではないか。

さ、祥子はどうしたの??しかしサチコの姿は見えない…するとレイがテーブルの下を指差して苦笑いしている・・・。

・・・ダメだったのね・・・遅かったのね・・・ヨウコはガックリとうな垂れるとその場にペタンと座り込んだ。

「どうしたんれすか〜?」

「もしもし?聖?聞こえたでしょ?…今変わるから…」

ヨウコはそう言って電話をユミに渡すと、ユミは首を傾げながらせいさま〜?と満面の笑みだ。そして・・・。

「もしもし〜?せいさまれすか〜?」

「ゆ、祐巳ちゃん!?どうして飲んだの??…あれ程言ったのに…」

「せいさま、今からすぐ来てくらさいね〜?皆まってるんですよ?それじゃあまってますから〜」

プツン。ユミはそれだけ言って電話を切るとヨウコに電話を返し、えへへ、と笑った。

「来るそうれすよ〜、せいさま〜」

…ウソだ…今そんな事全然言ってなかった…ヨウコはそう思いつつ苦笑いする。

餌食になった妹には申し訳ないがなんだかこんなユミは初めてでとても新鮮に思えた。そしてなんだか可愛く見える・・・。

ぴろりろり〜 ぴろりろり〜。

ヨウコが目を細めながらユミの頭を撫でていると、突然ヨウコの携帯が鳴った。

「もしもし」

「もしもし?じゃあ今から行くから、部屋はどこ?」

相当切羽詰った声にヨウコは驚いた。一度来ないと言ったら何があっても来るような人じゃなかった・・・。

なのにユミの一言で簡単に来てしまうなんて・・・。

「部屋は店に入って突き当たりの一番右端よ」

「分かった、ありがとう!じゃあ」

プツン。ツーツー。

「聖でしょ?今の・・・何だって?やっぱり来ないって?」

エリコはユミをヨシノの方に行かせるとヨウコの隣に戻った。

「・・・いいえ、来るって・・・しかも今すぐ・・・」

「本当に!?・・・鶴の一声ね・・・まるで」

ヨウコと同様、エリコも相当驚いているようで目をまん丸にしている・・・。その時だった・・・。

ぎゃあぁぁぁ!!!

ユミにほっぺたにキスされた由乃は物凄い悲鳴を上げている・・・。

それはまるで断末魔の叫びのような雄たけびだった・・・。




ねえ、あなた本当に変わったのね・・・。

私じゃ全然敵わなかったんだって・・・今心の底からそう思うわ。

でもね、私はあなたと過ごした時間は大切な宝物だったって・・・

今なら言える・・・。

山百合同窓会  第三話