ねえ聖様?皆あなたを待ってますよ・・・?



乾杯をしてから割りとすぐ後に注文した品々はぞくぞくとやってきた。

未成年のノリコと、そんなに飲めないユミとシマコ以外は皆ビールやらカクテルやらをおいしそうに飲んでいる…。

それまでは普通に近況とか将来の話などしていたのだが…ここで突然ヨウコははき捨てるように言い放った・・・。

「それにしても…どうして来ないのかしら…あのバカは…」

皆ヨウコの言葉にシーンと静まり返ると顔を見合わせ、一つだけ空けられた空席を見つめる・・・。

「私が…いるからでしょうか…?」

サチコは空席をじっと見つめながらボソリと呟いた。

「何言ってるの?聖様は卒論が忙しくて・・・」

「・・・いいえ、それだけじゃないわね。祐巳ちゃん、他に何か言ってなかった?」

エリコがレイの言葉を遮ると興味津々とゆう顔でズイっとユミに近づいてきた。

「うえっ!?・・・え〜っと…え〜っと・・・」

どうしよう…言うべきか言わざるべきか・・・しかしここで言ってしまうと何かマズイような気がするし・・・。

「何?他にも何か理由あるの?・・・もしかして由乃も知ってるの・・・?」

レイはキョトンとした顔で隣でバツが悪そうに笑っているヨシノの肩を揺さぶった。

気まずい沈黙があたりを支配する・・・。

「…お姉さまは…多分気まずいんじゃないでしょうか…一応解決しているとは言えやっぱり…その…」

静か過ぎる沈黙を一番に破ったのはシマコだった。チラリとサチコを見るとすみません、と言って俯く。

「志摩子さんが謝る事じゃないよ…多分それも当たりだと思う…あともう一つは根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だって…」

ユミはこの空気に耐え切れず、ついにセイの言っていた理由を述べた・・・。

しかし本当はこれもただの建前なのだろうな、とユミは思う。

どうせあの人の事だ・・・一番の本心はいつだって言ってくれない・・・。

「やっぱりそうなの…じゃあ、あの時聖と祥子が言っていたのは祐巳ちゃんの事だったのかしら?」

ヨウコはそう言ってユミとサチコを代わる代わる見つめた。

「・・・ええ、そうですわお姉さま・・・」

サチコはそう言って涙ぐむとテーブルの下でぎゅっとユミの手を握ってきた…。

「ねえ、何の話してるのよ〜?私達にも分かるように話しなさいよ」

と、ここで突然エリコが業を煮やしたように首を突っ込んだ。どうやら会話の内容がさっぱりわからないらしい。

ヨウコは少し考えていたがチラリとユミを見るといい?と聞いてきた。

どうやらセイはエリコにも言っていなかったらしい…さっきの話ではヨウコも聞いていなかったとゆう事になる…。

本気で皆に黙っとくつもりだったんだ…悲しいとかを通り越してもう何だか呆れてしまう。

「聖が、祐巳ちゃんを押せ押せでゲットしちゃったって話。ここからは祐巳ちゃんに直接聞いた方が早いと思うけど…」

…う〜ん…それは何だか違うような…それじゃあなんだか私が押し切られたみたいに聞こえるんですけど…。

シレっとそう言い切ったヨウコに、エリコとレイとノリコは口をあんぐりと空けて固まってしまっている…。

あまりに突然の緊急発表に三人の頭は完全にフリーズしてしまったのか微動だにしない・・・そして次の瞬間!

「「「えええぇぇぇぇ!!!!!」」」

「ほ、本当なの!?祐巳ちゃん??…てゆうかどうして由乃は知ってるの!?」

「そうよ!!どうして由乃ちゃんは知ってるのに私が知らないのよ!!」

「…えーっと…つまり佐藤聖様と祐巳様はお付き合いなさっている…とそういう事ですか…?」

三人は堰を切ったようにそれぞれに話し出すと、一斉にユミの方を見る・・・。

「え?え〜っと…由乃さんが知ってるのは成り行きで…その…」

ユミが顔を真っ赤にしてしどろもどろに話すのを見て、それまでユミの手をぎゅっと握っていたサチコの手に力が込められた・・・。

「皆様方!これ以上私の可愛い妹をいじめるのはお止めになってください!!

それに詳しく聞きたいのならもう一人の張本人に聞けばいいじゃありませんか!!」

サチコはそれだけ言うとフン、と自分のビールをグイっと飲み干した・・・すごくいい飲みっぷりだ…。

「お、お姉さま?そんなに勢い良く飲まれると後で辛いですよ…?」

ユミがサチコをまあまあ、となだめていると、その様子をじっと見ていたエリコが突然ポンと手を叩いた。

「すいませ〜ん、追加お願いしま〜す!!」

「あら、もう追加?・・・ってあなたまだ飲んでないじゃない・・・」

「まあまあ、私にいい考えがあるんだって。聖をおびき寄せるとっておきの方法が!!」

エリコはそう言ってやってきた店員さんにお酒の追加を頼むとにっこりと笑った。

ヨウコはその笑顔に何か不信感を感じたがあえてそれは言わなかった…何故なら、自分もセイに会いたいと思っていたから…。

会ってここではっきりと聞かせてほしい。あの時の約束を・・・。

「それにしてもいつの間に…祥子はもちろん知ってたの?」

「…そりゃあね、大事な妹の事だし…」

レイはサチコにビールを注ぎながら心配そうに話しかけた。

ユミはシマコとノリコとヨシノに経緯を話し込んでいるようでこちらに全く気づかないでいる・・・。

「でも…それで良かったの…?今更だけどさ…」

「初めはね…嫌だったわ…当然じゃない…でもね………」

サチコはそこまで言って口をつぐんだ。

「…いいわ、何でもない・・・」

そしてレイに注がれたビールをグイっと一口飲むとユミの方をちらりと見てふふ、と笑う。

その笑顔はとても穏やかで紛れもなく、姉の顔だった…。

レイはそんなサチコの笑顔に安心すると同時に強くなったな…と心底思う・・・。

以前のサチコならきっと今でも怒っていたに違いない。

でもそんなサチコを変えたのはユミの存在で、サチコを強くしたのもまたユミなのだろう…。

「・・・そっか・・・でも聖様に言いたいことぐらいはあるんじゃない?どうせ祥子の事だからそれも言ってないんでしょ?」

「ええ、まだ言ってないわ…だってこんな風に思える日が来るなんて思ってもみなかったもの…。

でももし今日来て下さったらきっと言おうと思ってた事があるの…」

「…遅くなっても来てくれるといいね…」

「ええ、本当だわ」

サチコはそう言って恥ずかしそうに笑った・・・。


「ねえ江利子・・・あなた何たくらんでるの・・・?」

ヨウコの問いにエリコはニヤリと薄気味悪い微笑みを浮かべた。

「さあ?なんだと思う?」

「わからないから聞いてるんでしょ?…それに本当に来るかしら…」

持っていたお箸で揚げ出し豆腐を二つに割りながらヨウコは呟いた。

「来るわよ。それに蓉子だって会いたいでしょ?」

「・・・どうして・・・そう思うの・・・?」

エリコはヨウコの割った豆腐の半分を一口でパクリと食べてしまう。

「だって、そろそろ解放されたいでしょ?いつまでも過去にしがみついててもしょうがないじゃない?」

・・・知ってたんだ・・・ヨウコは半分残った豆腐をお箸でつつきながら心の中で呟いた。

そう、確かにセイに恋をしていた…その想いは届かなかったけれど今では大分思い出になりつつある…。

でもやっぱり心のどこかでまだ彼女を愛していて、振り切れないでいたのだ。

「バレてたんだ」

ヨウコは俯くと静かに呟いた。エリコはそんなヨウコの肩を抱くとまるで子どもをあやす母親のように言った・・・。

「そりゃね、何年親友やってると思ってるの?聖の事もだけど、あなた達見てれば誰が好きかなんてすぐに分かるわよ。

まさか本気で聖が祐巳ちゃんを落とすとは思ってもみなかったけど…だからこそ蓉子は聖に聞くべきなのよ。

祐巳ちゃんのどこが好きなの?って。でないとあなた納得出来ないでしょ?」

納得できなければ気持ちは未消化のままずっと溜まってしまうから…。エリコはそう付け加えるとヨウコの頭を優しく撫でる。

ヨウコはお姉さん気質でとても強そうに一見見える。けれど本当はとても純粋でとても一途な人だ。

だからこそセイを好きになったのだろうと思う・・・。

セイは危なっかしくていつでも無茶をしていたけれど、あの情熱はヨウコにとってとても素敵なモノだったのだろう。

あんな人に愛されればどれほどに幸せだろか…それはヨウコでなくてもそう思う。

けれどセイはヨウコではなくユミを選んだ…。

どこをそんなに気に入ったのかはわからないが、それでも何か決めてがあったのだろう。

それを聞きたいのはエリコも同じだった。

本当に普通のどこにでもいるお嬢さんといった感じのユミの何がそんなに気に入ったの?と。



ねえ聖?そろそろ本当の気持ちを教えてよ。

今度ははぐらかさず真っ直ぐな言葉で・・・。

今のあなたならそれが出来るでしょ?





to be continued・・・

山百合同窓会  第二話