キミの事を皆に自慢したいって言ったらキミは怒るかな?


あちらこちらで蝉が大合唱を始めだしたそんなある日の話。


大学に通いだして早三ヶ月。ようやく大学の講義にも少しづつ慣れてきたそんなある日。

「祐巳さん!お昼一緒に食べようよ」

お昼を食べようとミルクホールに向かう途中、後ろから突然呼び止められた。

「由乃さん。あれ?今日は令様は一緒じゃないの?」

ヨシノはここ二ヶ月ほどずっとレイと一緒にお昼を食べていたのに、一体どうしたんだろう。

「それがさ!令ちゃんったらさ今日は祥子と食べるからって。なんだと思う?あの態度!!」

そう言って持っていたパンをヨシノは力まかせに握りつぶした。

「それで由乃さんは私の所へ来たと・・・。」

「そう。たまには一緒に食べましょ」

ヨシノはそう言ってミルクホールの真ん中の開いている席へとユミを引っ張っていく。

二人がけの席に腰を下ろしメニューを見ながら何にしようか、と悩んでいると後ろからよく見知った声が聞こえた。

「あっれ〜?祐巳ちゃんに由乃ちゃんじゃん!二人ともここで何してんの?」

ここで何してんの?って・・・お昼食べるに決まってるじゃないですか!

ユミは心の中でそう突っ込みを入れながら後ろを振り返った。

「聖様・・・に加東さん。ごきげんよう」

「はい、ごきげんよう。ところで今日はお弁当じゃないんだ?珍しいね」

するとそれまでじっと黙っていたヨシノが突然口を開いた。

「あの〜よろしかったらご一緒します?」

は?何言い出すの!?そんな事言ったらこの人はきっと・・・。

「いいの?いや〜悪いね〜」

セイはそう言って嬉しそうに隣から机とイスをガタガタとこちらに寄せた。

ケイもやれやれ、といった感じで一緒にそれを手伝う。

セイと付き合いだすようになってまだ三ヶ月・・・何かこんな事が妙に気恥ずかしい・・・。

ユミはチラリとヨシノの方を見ると、ヨシノはすでにさっき握りつぶしたパンにガブリとかじりついていた。

机とイスをセッティングし終えたセイは何も言わず、さも当然の事のようにユミの隣に座る。

別に大したことではない・・・でもこんな些細な事がすごく嬉しい。

「そう言えば祐巳ちゃんメニュー決まった?ついでだから一緒に買ってきてあげる」

セイはそう言って笑顔をこちらに向けた。

「い、いえ!だ、大丈夫ですよ?じじ自分で行けますし・・・」

やばいって…笑顔一つでこんなに動揺してどうする!?私!!

これじゃあヨシノ達にバレてしまうのも時間の問題だ・・・。

「何そんなに慌ててるの?いいよ、別に遠慮しなくても」

セイはそう言ってユミの頬を軽くつまんだ。

その瞬間、ユミの心臓はドクンと口から飛び出しそうになる・・・。

「祐巳さん、どうかしたの?顔色がさっきからおもしろいよ?」

・・・顔色がおもしろいってどうゆう意味ですか・・・?

ユミはヨシノの言葉にしょんぼりとうな垂れると鞄からサイフを取り出した。

そしてサイフから小銭を数枚取り出すとそれをセイに手渡す。

「…じゃあ、きつねうどんお願いできますか?」

「このくそ暑いのによくうどんなんか食べるわね…」

そう言ったのはヨシノさん。

「あら?でも祐巳ちゃんって確か冷え性なんでしょう?」

こう言ったのはケイ・・・あれ?確かに私は冷え性です…。だから年中でも温かいうどんとか食べれるけれど…。

「そうそう。だから祐巳ちゃんにはきっとちょうどいいんだよ。ちなみに私はざるうどんにする!」

最後はセイ、嬉しそうにユミから小銭を受け取りさっさと食券を買いに行ってしまった・・・。

セイが食券の列に並んでる間、ユミはさっきの疑問をケイにぶつけた。

「…え〜っと…どうして私が冷え性なのを加東さんがご存知なんでしょうか…?」

ユミの突然の問いにケイは目を丸くしている。

「えっ!?だって佐藤さんによく聞くから…」

「えっ!?聖様に??ほ、他には!?」

「ねぇ、何の話??」

二人の会話についていけないヨシノは一人目を白黒させている…。説明しなきゃいけないのは分かってる…。

分かってるけどもうちょっと待って!!

「ほ、他・・・?えっと…寝顔が可愛いとか…甘いものに目がないとか…まぁいろいろ」

「…え〜っと…え〜っと??」

「私にも教えてよ!」

ユミとケイのやり取りに全く入れずにいるヨシノの怒りはすでにギリギリのラインまで来ている・・・。

ヤバイ、そろそろ限界か・・・?

ユミがヨシノに説明しようとしたその時、ケイの口から思いもかけない台詞が放たれた。

「だって、毎日ノロケてるわよ?あの人。そりゃもう付き合いだした次の日ぐらいから…って…あれ?」

ケイは青ざめているユミと真っ赤な顔をしているヨシノの顔を交互に見て口をつぐんだ・・・が、時すでに遅し・・・。

ユミはガクンと頭を垂れるとその時をじっと待った・・・。そして・・・。

「つ、つきあってるぅぅぅぅぅぅ〜〜???」

ヨシノは事もあろうかその場で大声で叫ぶとユミの肩をガクガクと揺する・・・。

さっきまであんなにザワついていたミルクホールが一瞬にしてシーンと静まり返った。

「ちょ、ちょっとどうゆう事!?付き合ってるって誰と誰が!!??ま、まさか…せっむぐっ!!」

せっむぐ・・・?ユミは俯いていた顔をゆっくりと上げ真正面のヨシノに目をやると・・・。

「由乃ちゃ〜ん、迷惑でしょ?こんな所でそんなに大きな声だしたら…ね?」

セイが笑顔で後ろからヨシノの口をしっかりと塞いでいた・・・。その笑顔が今はとても怖い・・・。

ヨシノが青ざめて必死にコクコクと頷くのを見て、セイはようやく手を離すとうどんを取りに列に戻った。

どうやらセイは、うどんを置いて慌ててやってきたらしい。

「…はぁ…はぁ…死ぬかと思った…で?どうゆう事…?あれは誤報じゃなかったの!?」

ヨシノはゼイゼイと肩で息をしながら今度は周りをうかがいながらコソコソと小声で話し出す。

「あれは…誤報だったんだけど…その後なんて言うか…その…ねっ!」

ユミが顔を真っ赤にしながらヨシノを見る・・・。

「まぁなんとなく分かってたけどさ…でも一言言ってくれてもいいじゃない」

ヨシノはぷーっと膨れるとプイっとそっぽを向いてしまった・・・。

「…あの…私余計な事言ったみたいだわ…本当にごめんなさい…」

ケイはそう言ってユミに向かって申し訳なさそうに両手を合わした。ユミは首を振るとにっこりと笑い呟く…。

「・・・いいえ。加東さんのせいなんかじゃないですよ…黙ってた私が悪いんです・・・二人ともごめんなさい・・・」

ユミがしょんぼりと頭を下げるのを見て、ヨシノは小さく笑うとユミの肩を叩いた。

「いいって。それよりおめでとう…ほんと一時はどうなるかと思ったけど…そっか、結局聖様を選んだんだね…」

「・・・うん・・・」

セイサマヲエランダ・・・その言葉が何故か胸に刺さる…。

「そんなに落ち込まないでよ。今幸せなんでしょう?だったらもっと堂々と胸はりなさいよ!

…しかし聖様かぁ〜こりゃこれからが大変だぞぉ〜」

ヨシノはそう言って意地悪な笑いを浮かべた。ケイも隣でうんうんと頷いている…。

「た、大変って何が!?」

ユミの問いにヨシノはふっふ、と笑った。

「だってさぁ〜伝説の三薔薇の一人だよ?しかも元白薔薇様だよ?敵が多いに決まってるじゃない。

…うわぁ〜果たし状とか送られてきたら祐巳さんどうする〜?」

伝説の三薔薇って…まぁ確かにそう言われてるらしいけど…。

「・・・それは流石にないでしょう…由乃さん暴走しすぎだよ…」

「でも佐藤さんってやっぱりモテるわよ?クラスでもキャアキャア言われてるもの…。まぁ軽くあしらってるけどね」

「おぉ〜愛だぁ〜〜。くぅ〜っ、いいなぁ。ウチの令ちゃんと取り替えたいよ、ほんと」

そう言ってヨシノは拳で鼻をグイっと拭く真似をする。ユミはそんなヨシノを苦笑いしながらポツリと呟いた…。

「いやぁ〜、まぁそれは置いといて私もちょっと心配なんだよね…上手くやっていけるかな?って。

・・・相変わらず計り知れないし・・・」

ユミがふぅ〜と大きくため息をつくと同時に頭に何かがコツンと当たった。

思わず頭を抑えて振り向くと、そこにはうどんを持ったセイが申し訳なさそうに立っていた。

「聖様…どうしたんです…?」

「いや、ごめんね、なんか…私のせいだよね?」

セイはそう言ってうどんを机の上に置くと席についた。ケイとヨシノはすごい顔でセイを睨みつけている…。

ここでユミまで怒ってしまってはなんだかセイが可哀想だ・・・。

「いえ、まぁそうですけどね。もういいですよ、どうせいつかは言おうと思ってた事ですから…」

ユミがにっこり笑ってセイを見ると、途端にセイの表情はパッと明るくなった。

「…本当に…?怒ってない?」

「ええ、もう怒ってませんよ。でも次からは気をつけて下さいね?」

「はい、了解しました。…それとこれはお詫びの品…どうぞお納めください…」

セイはそう言ってユミに缶ジュースを一つ手渡すとにっこりと笑う。

「わぁ!ありがとうございます!!・・・うっ」

ユミは手渡された缶ジュースを見て思わず小さなうめき声を上げた。

ヨシノとケイは首をひねりながらユミの持っている缶ジュースを覗き込む。

「「うわぁ〜・・・」」

二人は同時に哀れそうな声を出し、顔を見合わせて笑い出した。

「言えてるわ祐巳さん!!一番の心配はそこだわ!!」

「…本当…きっとこれからも苦労するわよ…」

「・・・」

ユミは無言で笑い続ける二人を見つめ、そしてセイへと視線を移した。

「…どうしてよりによってコレなんです…?」

「えっ?だって前に飲んでたじゃない。好きなんでしょ?…それよりあの二人どうして笑ってるの?」

セイは正面の二人に首を傾げる。

「・・・さあ?それよりもコレ・・・よく売ってましたね・・・こんな時期に・・・」

気温が30度を超えようかとゆうこの時期に、

よりによって缶入り汁粉をチョイスして来たあなたを笑っているんですよ!

と言いたいところだが、ここは黙っておこう…。

「・・・ありがとうございます・・・」

ユミはそう言ってプルタブを引き、一気に喉へと流し込んだ・・・。

そうしないと温い汁粉なんて飲めたモノではない。

いくら冷え性とは言え、流石にこの時期これはナイだろう・・・。

向かいではヨシノとケイが手をたたいて笑っている・・・。しかしセイは・・・。

「・・・そんなに喉渇いてたの?もう一つ買ってこようか?」

などと一人ズレた事を言うものだから、ついついユミまで笑ってしまった・・・。



「ところで聖様?どうして加東さんに私の事話したんです?」

「ん?…あ〜…えっと…」

「そうだそうだ!!私も聞きたいですよ、聖様!!」

「…全くよ。こうなったのはあなたの責任なのよ?佐藤さん」

皆につめよられたセイは、フイと宙を仰ぐと耳まで真っ赤にしながら呟いた。



「だって…誰かに自慢したかったんだもん…」






幸せだと言いたい。


私は今とても幸せなんだと。


とてもステキなキミの事を、


世界中の人に聞かせたい。


とっておきの自慢話・・・。



自慢話