目を閉じてキミは何を思う?



目を閉じて一番に思い浮かべるのは出会った頃のなつかしさ。

寒さの中でようやく見つけたたった一つの火。



部屋の掃除をしていたら中学、高校時代のアルバムが出てきた。

いつの間にこんなモノ持ってきてたんだろう?

思わず2〜3ページめくって、そのあまりの恥ずかしさに思わず閉じた。

中学生の入学式から高校卒業までの私を閉じ込めたアルバム…。

「聖様〜何やってるんです?まだ終わらないんですか?」

「ひゃあ!!な、何!?び、っくりした…」

背後からの突然の声に喩えじゃなく本当に飛び上がる。

「ひゃあって…そんなに可愛らしく驚かれても…。てゆうかずっといましたけど、私」

なんともすっとんきょうなセイの声にユミは思わず笑い出す…。

セイは笑い転げるユミを軽く睨むと呟いた。

「いや、アルバムがさ出てきたんだよね。それでつい見入ちゃって…」

どうにかユミは込み上げてくる笑いを収めると、どれどれと近寄ってくる。

「言っとくけどおもしろい写真なんてないからね!祐巳ちゃんのと違って」

「・・・もう止めてくださいよ、それの話は・・・」

「ふふ、ごめんごめん…いや〜祐巳ちゃんのアルバム…はは」

セイは半年程前に見せてもらったユミのアルバムを思い出して笑った。

どれもこれもブレてたり、ボケてたり、おかしな格好をしていたりで、

笑いどころ満載のとてもおもしろいアルバムだった。

そして、とても幸せな家族の象徴だと…。

「別にアルバムはおかしくないのが普通なんですよ。まぁ…ウチのはちょっと…アレでしたけど…」

「そうだよね。じゃあどうぞ」

セイはそう言ってユミに自分のアルバムを手渡した。ユミはそれを受け取るとえへへ、と笑い中を開く。

はっきり言って昔の自分を見られるのは好きじゃない。でも、どうしてかな?この子には見て欲しいと思った。

もしかすると私とゆう人間をただ知って欲しかったのかもしれない…。

「聖、入学式…わぁ!か、可愛いですねぇ〜聖様…」

ユミはセイの中学校時代にキャアキャア言っている・・・。

「そ〜お?なんかスレてない?顔がさ…」

「そうですか?可愛いですよ〜。あぁ、この頃の聖様見たかったなぁ…」

ユミはそう言ってウットリと写真を眺めている。体育祭に文化祭…。

でもどれもこれもおもしろくなさそうな顔ばかり映っている・・・。

「…なんだかどれもあまり楽しくなさそうですねぇ…」

「うん。実際楽しくなかったからね」

セイはユミの問いにあっさり即答した。ユミはフム、と少し考えると次から次へとページをめくってゆく。

「・・・ねえおもしろい?どれもこれもおんなじ顔してない?」

「いやぁ…おもしろいですよ。あぁ、今も時々こんな顔してるなぁ…とか思うと」

「えっ!?今も私こんな顔する?」

知らなかった…。そうか、今でもこんな顔するんだ…。

「しますよ。本当にたま〜にですけどね。

だからそんな時は何を考えてるのかな〜とか思ったりしますけど…そうかおもしろくない顔だったんですね!」

おもしろくない顔…。まぁ、そうかな…でもちょっと違う…。この頃は周りの人や物全てが敵だった。

誰も私の事を見ようとしなかったし、理解しようともしなかった。どうせ誰も理解してくれないと思ってた。

「そうか、これからは気をつけよう。でもこの頃とは考え方は全然違うと思うけどね」

「別に気をつけなくていいですよ。それも聖様です。それにこの頃よりは今の方が雰囲気が柔らかいですしね」

それも聖様です。何気ない一言で私はいつも随分救われる…。

「ここから高校ですね…あぁやっぱり中学校とは顔つきが変わりますねえ。

なんだか可愛いは卒業した感じですね?」

ユミはそう言ってセイの方にアルバムを差し出した。

あんまり見たくないんだけどな…。セイはそう思いつつそのページにちらりと目をやった。

…確かに違うかもしれない…。可愛いさはすっかり消えて、さらに顔つきが悪くなってはいやしないだろうか…?

「お姉さまを初めて見たときも思ったんですけど、薔薇の館って皆さんキレイですよね?」

突然ユミはセイの高校時代の写真の内一枚を指差しながら呟いた。

その写真にはヨウコとエリコが一緒に写っている。

この写真は確か、お姉さまに無理やり撮られたんだっけ…。

「どうして皆顔がいいのかって?それはね、他は知らないけど私のお姉さまは私を顔で選んだから」

…いや、実際それだけが理由では無かったが…。それに産まれてこの方自分の顔がいいとは思った事もない。

…何せ外人に間違われる程バタくさい顔なのだ…。

「えっ!?本当に??

…でも顔ってゆうはっきりした理由があっていいですよね…私なんて完全に成り行きですからね…」

「あはは、確かにね。成り行きってゆうか行きずりって言うかね!!あははは!!!」

ちょっと?行きずりはあんまりじゃありませんか?…確かにそうだけど!!

ユミは隣で笑い転げるセイをほったらかしてページをめくってゆく。

「もう!・・・あれ?ここからまた表情が違いますね…聖、高校2年…」

「あぁ、そうかもね。栞に会ったのがちょうどこの頃だったからなぁ」

「・・・そっか・・・でも幸せそうですね?」

…幸せ…そうかな、確かに幸せだった。このまま時が止まればいいと思ったっけ。

「…確かに幸せだったよ。でもそれは本当の幸せが何なのか知らなかったんだよ…。

ただ時間が止まればいいなんて…」

「・・・本当の幸せ・・・?」

「うん。まぁ何が本当かは分からないけど、今の私は少なくとも時間が止まればなんて思ってないよ」

「・・・それは・・・」

どうゆう意味?と聞くよりも先にセイは答えた。

「キミと一緒に時を過ごして行きたいって言ってるの。

たとえどんな結末になったとしてもね。…だから今は幸せだよ…とても」

「・・・聖様・・・」

ユミは目頭が熱くなってくるのを感じた。

こんなにもはっきりと今、幸せだと言ってくれるのは初めてじゃないだろうか…。

「目を閉じたらさ、今でも祐巳ちゃんが薔薇の館にやって来た時の事を思い出すんだ。

表情のクルクル変わるキミがおかしくってさ。なんだか妙に居心地が良かったのを覚えてるよ。

・・・でも今思えば私は祐巳ちゃんに甘えてたのかもしれないな・・・」

聖はそう言って少し笑うが、その笑顔は寂しそうでも悲しそうでもなかった。

このアルバムのどこにも無い、ユミだけが見られる笑顔・・・。

「甘えてたのは…私です…いつも助けられてた…いつだって傍に居てくれてたんですよね?

どんな時でも大切に守ってもらってたのに…私…」

「それは違うって。あれは私が好きでやってた事だから、って前にも言わなかったっけ?

私は祐巳ちゃんを守る事で自分の存在理由を確かめてたんだよ。

誰かの為に生きる事をあの時知ったんだ。たとえ見返りがなくても・・・ね?」

「・・・見返りがなくても?」

それって…もしかしてすごい事なんじゃないだろうか…。

「そう。無条件で、無制限の愛ってやつだね」

「無条件で・・・無制限・・・それってすごいですね・・・」

「・・・うんすごいよ・・・そんな風に私に思わせるんだから…」

セイはそう言ってユミをじっと見つめた・・・。

本当にすごいよ…こんな気持ちが自分にもあるなんて知らなかった…。

誰かの為に生きるだけで自分まで幸せになるなんて…。

でもそうでないと恋愛は成り立たない事を知ったのは高校2年の時だった。

結局自分の事しか考えなかった自分と、自分の事より大事にしたい人が出来た事。

どちらが幸せな事んはのかはわからないけれど、今、確かに私は幸せだと胸を張って言える…。

私の存在をここに見出せてると・・・。

セイはそっとユミに近づき、ギュっと強く抱きしめた・・・。



「ねえ、今キミが目を閉じたら何が見える?」






無条件でキミを守ろう。


無制限にキミを愛そう。


その先に見えるのはきっと、


絶対的な愛だろう。












タイトル参考/シンディー・ローパーより。

unconditional love