今頃重い雲のその向こうで、天の川が沢山の笹舟を運んでいるに違いない…。




愛は増すモノ。

セイはそう言ってユミを抱きしめた。

見返りも求めずに抱く、愛しいと思う気持ち。

そして、他の誰にも目をくれない、盲目の恋。

今まで知らなかった感情は、一年にたった一度のこの日に…。


「さて、そろそろ帰ろうか祐巳ちゃん、…家にさ」

家に、とゆう言葉のあとにセイは手を差し出し、私達の。と付け加えた。

「・・・はい!」

ユミはそれが嬉しくて、差し出された手に自分の指をからめる。

『出て行ってくれる?』

と言われてから一ヶ月。どれほどあの家に帰りたいと願った事か…。

二人は曇ってきた空とは裏腹に、晴れ晴れとした気持ちで歩き出した。



・・・家について5分も経っていない。

そう、まだ2〜3分しか経っていないとゆうのにこの人はどうだ!

買い物袋の中の食材を冷蔵庫に入れ、リビングに戻ってきたと思ったら…。

「…聖様…?何やってるんです?」

ユミのあきれた声にセイは口の端だけ上げてニヤリと笑う。

そして、ユミのシャツのボタンを上から順に外してゆく…。

「ちょっ、ちょっと!ご飯が先ですよ!!待っ…んっ…」

しかし必死の抵抗も空しく、あっとゆう間にシャツの前を開かれてしまう。

セイはそのまま背中に手を回し、ブラジャーのホックをパチンと外した。

薄いピンクの下着を取り、露になった白い胸にそっと唇を寄せ、そのまま強く吸い上げる…。

「…や・・ん…」

ユミが痛いような痺れるような感覚に思わず身をよじる。

しかし、セイはその反応を愉しんでいるかの様に同じ場所をさらに強く吸い上げた。

「っあ…ッ…く」

セイの吸い上げた場所はまるで薔薇が咲いたみたいに赤く染まった…。

はぁはぁ…とユミの息は次第に上がりはじめる…。

…と、ここで突然セイはユミの胸から唇を離すと、今度はシャツを着せてゆく。

「…え?」

…なんだ止めちゃうのか…。

ユミの脳裏にふとそんな考えがよぎる。もっと触れていてほしい。

もっと強く抱きしめてほしい…。耳元で好きだよ…って言って…。

ユミは熱を帯びた瞳をセイに向ける。

しかしセイはフイとユミから視線を外し、シャツを最後まで着せ終えると呟いた。

「…続きはまた後で、ね。これ以上したら止まらなくなっちゃいそうだから…だからそんな瞳でみないで?」

セイは耳まで真っ赤にしてユミの頬に優しく触れる。

そして潤んだユミの目頭にそっとキスをした…。


「七夕だから冷麺ね」

セイがそう言って頑として譲らなかったものだから今日の夕食は冷麺だった。

「どうして七夕は冷麺なんです?」

と言うユミの問いにセイは、ただなんとなく、と答えた。

本当はただ食べたかっただけに違いない・・・。

案の定セイはうれしそうに上に乗っているきゅうりと錦糸玉子を頬張っていた。

「…具だけそんなに先に食べちゃっていいんですか?」

「うん!大丈夫、祐巳ちゃんに貰うから!」

セイはそう言ってヒョイとユミの皿からきゅうりと錦糸玉子を持ってゆく。

「ちょ!!ああああ!!!置いてたのに…なんて事するんですかぁ〜」

「ちょっとぐらいいいじゃない」

ちょっと?それがちょっと??どう見ても半分は持っていった!!

「…ひどい…。私が卵好きなの知ってるくせに…」

ユミは自分の皿を見つめて呟いた。麺は沢山、具は半分…。

「しょうがないな、じゃあこれ上げるから、ね?」

そう言ってトマトを一つこちらによこした。

「はぁ、トマトですか」

トマト…うぅむ…まぁいいか。卵いは及ばないが…まぁトマトも…。

ユミは心の中でそう思いながらトマトを見つめていたが、やがてそのトマトを口の中に放り込んだ。

と、その時。

「…ふふ…ふははは!!トマトでいいんだ!?」

セイはそう言って突然笑い出した。

「なっ、何です?急に…」

「だ、だって、あいかわらず、わか、わかりやすっ…ははは

…い、今ここ、ろの中ふふふトマ、トマ、とた、たま、ごを・・・あはは!!」

もうダメだ、何を言ってるのかさっぱり解らない。どうやら何かがツボだったのだろう。

セイは後ろに倒れこむとお腹を抱えて笑い出した・・・。



夕食とお風呂を終えたユミは風に当たるためベランダに出た。

空を見上げてもやっぱり曇っていて天の川はおろか、星すら見えない。

「…やっぱり見えないや…」

ユミはふぅ、とため息をついた。

「どうしたの?湯冷めするよ、はいこれ」

同じくお風呂から上がってきたセイがカーディガンを持ってベランダに出てきた。

そしてやっぱり空を見上げている。

「あっ、ありがとうございます。いえね、天の川見えないなぁって」

「あぁそうだねぇ、でもそれでいいんじゃない?でないと思い切りイチャつけないじゃない」

セイはそう言ってカラカラと笑った。

「・・・なんだかもう少しロマンチックな事言えません?」

「えぇ〜?ろまんちっくぅ?」

セイはそう言ってわざと考え込む振りをする。そして…。

「いいじゃない、天の川はあの二人のモノだよ。ジャマしちゃ可哀相だ」

セイはそう呟いてユミの肩を抱き寄せた。そして、そっと口付ける。

「・・・そうですね・・・ジャマしちゃ可哀相ですね」



「うわぁぁ…どうしたんです…?コレ…」

ユミはそれを見て思わず口元を覆った。

…天井には光を吸い込んで光る天の川が流れている…。

ちゃんと本を見ながら作ったのか、天の川の近辺の大きめの星までちゃんと再現してあった。

「昨日作ったんだ…祐巳ちゃんが喜ぶかな、と思ってさ…」

セイはそう呟くとプイと向こうを向いてしまった。どうやら恥ずかしいらしい。

「う、嬉しいです!!スゴイ!うわぁぁ、どうしよう…」

そう言ってユミはセイに抱きついた。

セイはちょっとビックリしたのか一瞬固まったが、やがて優しく抱き返してくれた。

「でも、どうして…こんな?」

「ん?だって、前に祐巳ちゃん言ってたじゃない。天の川見たことないって。

いくら私でも天気だけはどうしようもないからね。それならいっそ作ればいいかな、と思ってさ」

『私天の川って見た事ないんですよね。いっつも曇ってるし…。

なんだか天の川って星のチリの集まりなのは知ってますけど、他の星より神秘的な気がしませんか?』

確かに言った。でもアレは付き合う前の事だ。

しかも私…お姉さまに言ったんだよね…。

ユミはそれを思い出して、少し自己嫌悪に陥った。なんて残酷な事をしていたのだろう…。

セイにもそれが解ったのだろうか、ギュっとユミを抱いていた腕に力を込めた・・・。

「…キミは落ち込まなくてもいいよ。あの頃はまだ、私が勝手に好きだっただけだから。

これを作ったのはその事を責めたかった訳じゃないんだ。ただどうしても作りたかったんだ…。

誰にもジャマされない二人だけの天の川を」

セイはハッキリ、そして力強く言い切った。ユミもその言葉にコクコクと頷くとセイの顔を見上げた。

ほんのりと月明かりがセイの顔を照らし出している。

その表情は何か覚悟を決めたような、切ないようなそんな顔だった。

「…ありがとう…聖…好き…誰よりも愛しいの…」

「…名前で呼んでくれるの初めてだね?

私も…キミが愛しくてしょうがないよ…欲しいんだ、祐巳が…」


二人だけの天の川は、空にある天の川よりもずっと、輝いて見えた・・・。





ニセモノでもいい。


・・・あの星が欲しい。


壊れてもいい。


・・・抱いてほしい・・・。


そして最後にキスをして・・・。













天の川  前編