雨だって晴れだって、一緒だったら全然いいよ。



『今日は久しぶりに晴れ間が見られるでしょう』

その日ユミは、朝から大忙しだった。

「聖さまぁ〜、洗濯物これで最後ですよね〜?」

「うん。…あっ、待ってこれもお願い!」

セイはベッドの上のシーツを取るとユミに放ってよこした。

ユミはズルズルと長いシーツを洗濯機の中に詰め込んでスイッチを押す。

久々に動いた洗濯機は嬉しそうにゴウンゴウンと音を立てて回りだす。

ユミはリビングに戻るとう〜んと伸びをして、ベランダに目をやった。

ベランダでは布団が風でバサバサはためいている。布団の横には二つの枕。

なんだか枕が並んで干してあるのって、妙に気恥ずかしい。

なんて言ったらセイに笑われてしまうだろうか…。

ユミは赤くなっているであろう頬を押さえると思わず小さく笑った。

「はぁぁ。久々に気持ちいいなぁ」

一回目の洗濯物を干し終えたセイはやっぱり伸びをしながらリビングに入ってきた。

一緒に住んでいると行動が似てくるのはなぜだろう…。

「さて、そろそろ準備しようか」

「そうですね。今から準備したらちょうどいいぐらいでしょうし」

そう。今日は久しぶりに晴れたので2人で買い物に行くつもりなのだ。


あれは遡る事2時間前。

セイとユミは昨日遅くまで起きていた。

何をしていたのか…。それはまぁ、言うまでもないだろう。

今日、セイは珍しくユミよりも早起きした。何故か。理由は眩しくて。

いつもならカーテンを閉めて眠るのだが、

最近は雨ばっかりで朝の時間が判りにくい為カーテンは開けっ放しだったのだ。

…と言うのは建前で、本当は眩しくて眠れないから閉めているだけで、

この時期はそんな心配などないと言うのが本音。

しかし今日はあまりの眩しさに思いもかけず早起きしてしまった。

隣を見るとユミはまだ夢の中だ。

「…なんか悔しい…」

だからセイはユミを叩き起こし、洗濯をしてどこかに出かけようと誘った。

「久々にいい天気だから夏物の服でも見に行こうか?」

セイの言葉にユミは寝ぼけ眼で頷くとノロノロとベッドから起きだして、洗濯物を集めだした。

「…聖様、それも脱いでくらさい…」

そう言ってユミはセイのパジャマのボタンを外そうとする。セイは慌ててそれを止めると言った。

「…祐巳ちゃん、とりあえず顔洗ってきたら?まだ寝ぼけてるでしょ?」

そして苦笑いしながらまだボーっとしているユミの背中を押して洗面所まで連れて行く。

しばらくしてようやく覚醒したユミはセイのパジャマを引っ剥がすと、

他の洗濯物と一緒に洗濯機の中へと放り込んだ。

「…結局脱がされるんだ…」

「さっ、ほら!朝ごはんの準備しますから聖様も早く服を着て下さい!!」

ユミはそう言ってシャキシャキと動く。

いっぽう聖はのろのろと着替えると掛け布団を持ってベランダに出た。

久しぶりの太陽は梅雨で湿った空気をカラリと乾燥させ、とても気分がいい。

「聖様、トーストでいいですか?」

「うん!祐巳ちゃんの作るのならなんでも」

「ハイハイ。本当は自分で作るのめんどくさいんでしょ?」

「あ、あはは。バレた?」



こうして2人は2回目の洗濯物をする前に朝食を済ませ、今に至るとゆう訳だ。

2回目の洗濯も無事終了した所でユミは忘れ物がないかを確認すると玄関へと急いだ。

セイはすでに玄関で靴を履いてスタンバイしている。

「ほら祐巳ちゃん!!早く早く」

足踏みをしながらすでに手はドアノブにかかっている。

「…子供みたい…」

ユミがボソっと呟くとセイはピクリと動きを止めてこちらを振り返った。

「ん?何か言った?」

「いいえ。何でも。それじゃあ行きましょうか!」

こうして二人は久しぶりのデートへと出発した。


日曜日…。それはどこに行っても混んでいるとゆうのが通説。今日とて例外ではない。

「すっごい人ですねぇ」

「ほんとにねぇ」

電車を乗り継いでK駅まで来たもののどこを見ても人・人・人。

思わず二人からため息が漏れる。

途中フラリと立ち寄ったコーヒー豆専門店でセイは足を止めた。

荷物になるから最後に買うと言っていたが、豆一つ選ぶのにその表情はかなり真剣だ。

ユミはそんなセイの顔をちらりと見て、鼓動が早くなるのを感じた。

切ない顔、真剣な表情、ふざける時、抱いてくれる時…。

今までいろんなセイの顔を見てきた。でもどの顔にも未だにユミはドキドキする。

普段何気ないおしゃべりの中、ふいに見せる表情や仕草。

その度にこの人に恋をする…。

『…きっと死ぬまで恋しつづけるんだろうな…』

ユミがボンヤリそんな事を考えているとようやくセイが動き出した。

「いやぁ、ごめんごめん。迷っちゃってさ。キリマンジャロかブルーマウンテンか…どっちがいいかな?」

「はぁ、どっちも一緒じゃあ…」

コーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れるユミには味なんて分かるはずもなく…。

「!?何言ってんの!!全然違うじゃない!!例えばね、原産地からして……」

案の定セイにいちから説明してもらうハメになってしまった。

でもセイの表情はとても生き生きしている…。

そんなセイにユミまでつられてしまいそうだ。…いや、コーヒー云々は相変わらずわからないが…。

やがて大通りに出ると二人は一番近くにあった2階建てのブティックに入った。

店内にはもう既に水着などが置いてある。セイはその中の一つを手にとってニヤニヤしている。

「祐巳ちゃん、これとかどう?すっごく似合うと思うんだけど」

嬉しそうなセイとは対照的にユミは完全に呆れ顔で言った。

「…今日は夏服見に来たんですよ、どうして一番に水着のとこに行くんですか…」

「だって見たいんだもん。ちぇっ、ダメか」

セイは少しいじけて見せると、水着を戻しユミの肩を抱いて2階へと上って行く。



結局その後服屋さんばかり3軒回って戦利品はTシャツにパンツ、ノースリーブなどなど。

後は細かい物も沢山買ったからセイの片手はもう完全に塞がってしまった。

「結構買ったね?これで当分は凌げるかな?」

「ええ。でもちょっと調子に乗りすぎたんじゃないですかね」

ユミは自分の荷物とセイの荷物を交互に見直した。結構な量だと思う…。

そんなユミのクルクル変わる表情を見て、セイは苦笑いした。

『変わってないなぁ…。出逢った頃と同じだ。』

あの頃もう恋はしないと誓ったのにこの子はそれをいとも簡単に打ち破って、

今こうして隣に居てくれる事を心から神様に感謝した。

人の居ない楽園に住みたいと本気で願ったあの頃。

この子に会った事で自分は変われたのだと・・・。

数億人もの人の中で、自分の事を好きだと言ってくれる人が一体何人ぐらいいるとゆうのか。

しかもその中で自分も想いを返す人なんてそう沢山はいないだろう。

『…その中でもこの子だけは特別。他の好きとは比べ物にはならないよ…』

切なくなるのも、嬉しくなるのも、時として苦しくなる事さえあるけれど、それでもこの子だけはもう・・・。

何があっても・・・。

セイは隣で嬉しそうに話ているユミを見つめた。と、その時だった。

ポツリ。と何か冷たいモノが頬に当たったのだ。

「「あ」」

二人は同時に声を出して空を見上げた。

さっきまであれほどに晴れていたのに、今はどんよりと曇ってきている。

慌てて二人は目の前にあったコンビニに入ると窓の外を見つめた。

最初はポツリポツリだったのに次第にサーーーっと小雨が降り出す。

「うー。今日は一日晴れって言ってたのに・・・」

「まぁまぁ、そう唸りなさんなって。ちょっと持ってて」

拳をぐーにして空を見上げるユミに、セイは荷物を預けるとそのまま店内の奥に行ってしまった。

雨が降るとテンションも下がる。別に嫌いなわけじゃないけど、気持ち的には憂鬱だ。

「はぁ、止まないかな…せっかくのデートなのにな・・・」

ユミはため息をつくと呟いた。と、そこにセイがビニール傘を買って帰ってきた。

「お待たせ。さ、それじゃあ行こうか」

ユミの憂鬱な気分とはうらはらにセイの表情はなんだか明るい。

そして、外に出るとセイはポンっと傘を開いた。そして、

「ほら、祐巳ちゃん見て。青空みたいに見えない?」

セイが指差した方を見ると・・・。

「…ほんとだ…」

セイが買ってきたのは青いビニール傘。

どんよりと灰色の空はビニールの青さでかき消され、キレイな青空になっていた。

『…このためにわざわざ・・・?』

きっと雨が降ればユミのテンションが下がってしまうのが判ったのだろう。前からそうだった。

この人は誰よりも先にユミの気持ちを察してくれる・・・。

ユミはそう思うと嬉しくなって思わずセイの腕に抱きついた。

「聖様って、魔法使いみたいですね?」

ユミが言うと、セイはにっこり笑って言った。

「祐巳ちゃん限定のね」


そして二人で青空を見上げると、ゆっくり歩きだした・・・。







熱くても、寒くても二人なら大丈夫。


寂しくても、悲しくてもキミが居てくれるのなら平気だよ。


雨だって、晴れだってキミと一緒なら全然いいよ。



青空