第一話『バレンタインデー』

祐巳ちゃんが朝からいそいそと買い物に出かけてしまった。

どこ行くの?って聞いても笑顔で『内緒です!』だって。

まぁそれはいいんだけど、私はカレンダーをチラリと見て溜息を落とした。

「バレンタイン・・・か」

自分で言うのもなんだけど、ウチの学校はチョコとか禁止してるにも関わらず、

生徒達はこぞってチョコを持ってくる。そして、私はいつも何個か貰うんだけど、

チョコを持ってくる事を注意しなきゃならない立場なのに!っていっつも蓉子に怒られる訳。

それってかなり理不尽だと思うのよ。だってさ、無碍に出来ないじゃん?

いくら義理だって分かってても、やっぱそういうのは貰ってあげたいしさ。

気持ちって大事だよね、義理でも。でも、今年のバレンタインデーはほんの少しだけ楽しみ。

だって、祐巳ちゃんは一体どんなのくれるんだろう?って気になってしょうがない。

多分、祐巳ちゃんが今日朝から買出しに行ったのは、チョコレートを買うためだって思うの。

そう!私に明日渡す為に!!くぅぅ、祐巳ちゃんはやっぱ可愛いなぁ!!

で・も。祐巳ちゃんは夕方になっても帰ってはこなかった。

それどころか、突然今日は実家に泊まりますのメール。

「ちょっと!一体どういう事?」

『すみません、聖さま。どうしても抜けられない急用が出来てしまいまして!

実を言うと、朝出かけたのもそのためだったんです!!本当にごめんなさい!』

「・・・・・・・・・・・」

ちょっと待ってよ。じゃ、じゃあもしかして祐巳ちゃん・・・明日がバレンタインデーだって事も忘れてるって事?

それって・・・それってあんまりじゃない!!私、こんなにもワクワクしてたのにっ!!

こうなったら、私も実家に帰ってやる。それからの私の行動派凄く早かった。

荷物を詰めて母さんに電話。私の突然の決意に母さんが驚いたのは言うまでもない。

それから祐巳ちゃんにメールを打つと、すぐに短いメールが帰ってきた。

『分かりました。気をつけてくださいね!それじゃあ、また明日学校で』

・・・だって。もういいよっ!!ふんだ!

私は戸棚の中にしまってあった祐巳ちゃん用のチョコレートを鷲掴みにして家を飛び出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家に戻ると久しぶりに父さんが居て、気味悪いぐらいの笑顔で私を迎えてくれたけど、

そんな父さんの膝の上に祐巳ちゃん用のチョコレートを投げ捨て、そのまま部屋に引っ込んだ。

下から父さんの嬉しそうな声が聞こえてくる。ほんと、親って単純。

しばらくしたら母さんが部屋にやってきた。

「聖ちゃん、今日は急にどうしたの?」

「べっつに。家に居てもどうせ誰も居ないしー」

「あら、祐巳ちゃんは?」

「実家。何か急用なんだって」

ベッドに転がってる私の隣に、母さんが腰掛けて小さく笑う。そしてチラリと私の左手の薬指に目をやり、

まるで子供にするみたいに私の頭を撫でた。

「拗ねてないで、明日はバレンタインよ?聖ちゃんは祐巳ちゃんにあげないの?」

「さっき父さんにあげちゃった」

投げやりな私の言葉に、母さんはみるみるうちに表情を変えて私を睨んだ。

だってさ、私は0時ちょうどに祐巳ちゃんに渡したかったのよ。

それなのに祐巳ちゃん居ないんだもん。仕方ないじゃん。

でもそんな私の考えなんて知りもしない母さんは私の手を引いてリビングに下りてゆく。

「あなた!さっきのチョコレート・・・食べちゃった・・・の?」

父さんの手にはさっき私があげたチョコレートの包み紙が握られている。

子供みたいに口の端にチョコを付けた父さんは満足げな顔で可愛く頷いて見せた。

「うん。美味しかったよ、聖。これはもしかして手作りなのかい?」

「・・・んな訳ないでしょ」

「・・・そうか・・・」

「そうかじゃないわよ!!それは祐巳ちゃんにあげる用だったのに・・・ああ、もう・・・。

どうして父親ってこうも娘に弱いのかしら・・・」

「そ、そんな事言われてもだなぁ・・・」

母親と父親は、あの事があってから随分と仲が良くなった。私が居なくても、この家はもう暗くない。

それもこれも祐巳ちゃんのおかげなんだと思うと、急に祐巳ちゃんに逢いたくなった。

はぁ・・・チョコレート・・・やっぱり父さんに渡したのは失敗だったのかなぁ・・・。

私が祐巳ちゃんにあげるあずだったチョコを父さんにあげてしまった事をようやく後悔し始めた頃、

母さんが言った。呆れたみたいな顔して。

「聖ちゃん、まだ間に合うわ。今から作りましょう、ね?」

「・・・はあ?ちょ、待ってよ、私明日も仕事なんだけど・・・」

「仕事と祐巳ちゃんとどっちが大事なの!?」

「いや、そりゃ祐巳ちゃんだけどさ・・・でもだからって・・・」

「そうだぞ、仕事と家庭を比べるのはだなぁ・・・」

「あなたは黙ってて!そうやって仕事ばっかり優先してたから、あんな事になったんでしょ!!」

「う・・・」

「・・・・・・・・・・」

母さんは強くなった。あの日以来、父さんに対してもキチンと自分の意見を言うようになったし。

何よりも外に出る事が増えた。

今では半年に一回は祐巳ちゃんちのお母さんと二人っきりで温泉旅行に行ったりもする。

ちなみに、どんなに頼んでも私達や父さんたちは仲間には入れてもらえない。

まぁそんな話は置いといて。とりあえずこうなった母さんはもうテコでも動かないのを私は知ってるし、

実際私もほんのちょっとぐらいは申し訳ないと思ってる訳で・・・。

でも私はすっかり忘れてた母さんは、かなりのスパルタだったって事を。


第二話『バレンタインデー2』


朝、家を出て私が向ったのは実家。久しぶりに皆の顔が見たかったのと、

明日は帰れそうに無いから一足先に祐麒とお父さんにバレンタインのチョコを渡す為に。

家に帰るとそれを知ってたお父さんが嬉しそうに出迎えてくれた。

犬ならきっと、尻尾を振ってチョコの催促をしそうなぐらい嬉しそう。

「ただいま!はい、お父さん!一日早いけど、これお父さんに」

「おお〜〜!やっぱり娘に貰うチョコはこの世で一番価値があるな!」

「あ、ちょ・・・お父さん・・・」

私はゆっくりとお父さんの後ろを指差した。すると、そこにちょっとだけ遅れてきたお母さんの姿。

ちょっとだけ俯いて絶対怒ってる。だって、お父さんの後頭部を上目遣いで睨む顔がすっごく怖かったんだもん。

「そうよねぇ〜可愛い娘のが一番よねぇ〜」

その声に気付いたお父さん。顔から見る見る間に笑顔が消え、真剣な顔で私に言った。

「祐巳、やっぱり祐巳のよりも嬉しいのは母さんのだ。これだけは譲れない、すまん!許せっ!!」

「はあ」

私のチョコを抱えてお父さんはそれだけ言って、慌ててリビングの奥へと消えてしまった。

それを見たお母さんは嬉しそうに笑ってる・・・変な両親。でも、ちょっとだけ羨ましい。

私も聖さまとこんな風になりたいなぁ、なんて、最近凄くよく思う。

そんな事考えてる私に、お母さんは嬉しそうにどこかのパンフレットを見せてくれた。

「なに、これ」

「来月ね、佐藤さんと行く温泉なの!いいでしょ!ほら、部屋に露天風呂もついてるのよー!!」

「またぁ!?」

「うふふ、いいでしょ?何着ていこうかしら〜♪」

最近のお母さんの楽しみは、聖さまのお母さんと行く全国温泉ツアー。

鼻歌交じりにパンフレット握り締めてスキップするお母さん・・・。

これに飽きたら、そのうち海外にも手を伸ばすとか言ってたけど、一体いつからこんなに仲良くなったのか。

まぁ仲悪いよりはその方が全然いいけど、少しぐらい私も連れてってくれてもいいと思う。

でも絶対連れてってくれないんだよね。ま、別にいいけど。私は聖さまと行くもんね!

「おう、祐巳」

「あっ!祐麒、はい、これ」

チョコレートを差し出すと、祐麒はちょっとだけ恥ずかしそうに頭をかいた。

弟って、こういうとこが凄く可愛いのよね。だって絶対いらないって言わないんだもん。

で、結構お返しを倍にして返してくれるとことかね!

「ありがと。毎年毎年」

「いいえ、どういたしまして」

「で、これからどっか行くの?」

「うん。祥子さまに呼ばれてるの。・・・っと、もうこんな時間!それじゃあ、私はもう行くね!」

「おう、気をつけて」

それから私は祥子さまのとこへ向った。今朝、突然メールが来たのだ。

『聖さまにチョコを作るって言ってたわよね?昨日、いいカカオが手に入ったの。

良かったら祐巳も一緒に作らない?』

これはもう、本当にありがたかった。だって、聖さまにあげるのはやっぱり特別にしたかったから。

ちゃんと自分で心を込めたものを作りたかったんだ。だから私は祥子さまの好意に甘える事にした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

祥子さまの家は相変わらず大きい。多分ウチの実家が三軒は入る。

スポーツカーとか高そうな車が沢山並んでる脇を通り抜けてようやく玄関に辿り着くと、

ドアが勝手に開いた。中から出てきたのは由乃さんと志摩子さん。

「祐巳さん!早く早く!もう作り始めてるんだよ!」

そう言って私の腕を引っ張る由乃さんは楽しそうに志摩子さんと目配せする。

「な、なに?」

「ううん!あのね、もうすっごいんだから!!ね?志摩子さん?」

「ええ、とても楽しいわ。まるで彫刻みたいで」

「・・・彫刻?」

この時にほんの少しだけ嫌な予感はしてたんだ。だって、何故か二人とも全身チョコだらけだったし、

手にはミノ(彫刻に使うアレね)持ってるし。おまけに家の中はやけに甘ったるい匂いで一杯で・・・。

由乃さんに引っ張られるがまま厨房に向った私を待っていたのは、

とてつもなく大きな板チョコ・・・いや、大黒柱?チョコで出来た。

「祥子さま・・・こ、これは一体・・・」

「祐巳!待っていたのよ!さぁ、これに着替えてこれ持って!」

「うぁ、は、はい!」

持たされたのは割烹着とミノ。ま、まさか・・・チラリと隣を見ると、

志摩子さんが真剣な顔つきでゴーグルをつけてチョコを削っている。いや・・・おかしいよ、志摩子さん。

つか、皆どうして何も突っ込まないのよ・・・。私は目の前にある巨大なチョコを見上げ、

携帯を取り出した。確実に今日は帰れない。そう思ったから。

電話の向こうから聞こえる聖さまの声が凄く機嫌が悪そうだった。

だから私はついついとっさに嘘ついちゃった。急用が出来たからって。まぁ、ある意味間違いではないけど。

そしたら聖さまも実家に戻るっていうから、私はほんのちょっと安心した。

だって、やっぱ一人きりでは過ごして欲しくなかったから。


第三話『気持ち』


翌朝、私は眠い目を擦りつつどうにか学校に向った。鞄の中には昨日作ったチョコレート。

結局、あれから私は何度も何度も母さんに怒られながら殆ど徹夜でチョコを作り続け、

やっと出来たのが・・・。

「・・・これだけなんて・・・」

小さな箱の中にはようやく成功した小さなトリュフが三つ。ほんと、私今回のことで痛感した。

お菓子作りは向いてないって。母さんは私が作るのを鬼みたいな目で睨み続けてきたけど、

それを父さんは失敗作を一晩中食べ続けても尚、涙目でフォローしてくれてた。一晩中。

何だか申し訳なくなって途中で、もう止めようよ、と言った私を母さんはさらに怖い顔で睨んでくるし・・・。

ほんと、散々なバレンタインデー前夜だった。もう二度とチョコは作らない!

心の底からそう誓ったんだけど、母さんは今日、出掛けに私に言った。

『来年はケーキを作りましょうか』

・・・と。それを聞いて首を横に振ったのは私だけじゃないのは言うまでもない。

学校について校門をくぐると、登校中の生徒の何人かが私の元に走ってきて笑顔で挨拶をしてくれる。

「佐藤先生、ごきげんよう!はい、これ。食べてください!」

「あ、ありがとう・・・でもチョコは禁・・・し・・・って、聞いてないか」

チョコを鞄に直しながら呟いた私の背後からおぞましいほどのオーラ。

恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは禍々しい顔をした蓉子。

「聖・・・いいご身分ねぇ。見たわよ、どうしてきっぱり断らないのっ!!」

「そんな事言われても、チョコに罪は無いじゃない」

そんな私達の間に割り込んできた少女達が、私と蓉子を交互に見て言った。

「水野先生、佐藤先生、これ・・・あんまり美味しくないかもですけど・・・貰ってください!」

「「あ、ありがとう・・・」」

私と蓉子はポカンと口を開けたままチョコを受け取り、お互い顔を見合わせた。

そしてふと、蓉子の手の中のチョコを見つめる。すると蓉子はそれを後ろにさっと隠して、

スタスタと歩き出した。

「ちょっと。誰よ、断れって言ったの」

「ま、まぁアレよ。不可抗力よね、今のは」

「何が不可抗力・・・そんな事言って、本当は嬉しいんでしょ?」

「そ、そんな訳ないでしょ!?バカ言ってないでさっさと職員室に向いなさいっ!!変態教師っ!!!」

ちょ、どうして私がそこまで言われなきゃなんないのよ!!

早足で蓉子を追い抜く時、チラリと見えた蓉子の横顔は・・・ニヤけてた。

そりゃもう気持ち悪いぐらいニヤけてた。何だかんだ言いながら、教師だってチョコ貰うと嬉しいもんだ。

蓉子見てると、それが手に取るように分かる。さて、とりあえず問題は、このチョコをいつ渡すかって事だ。

それから、私はチョコレートの事を考えて一日を過ごした。休み時間はあまりにも短いし、

昼休みは皆保健室に何故か集まってくるし。結局、祐巳ちゃんと二人きりになれるのは、

放課後か家だと気付いたのは、既に生徒達が帰り始めた頃だった。

「ゆ〜みちゃん」

「聖さま!」

祐巳ちゃんは夕焼けに目を細めながら窓の外を見つめてた。

でも私の声に嬉しそうに振り返って笑顔で迎えてくれる。

こんな顔見たらさ、もう昨日の事なんてどうでもよく思えるから不思議。

私は祐巳ちゃんの向かいに腰掛けて、一緒に夕陽が沈むのをしばらく見てた。

夕陽が完全に沈んで、外はもう真っ暗。チョコレートみたいに。

「ね、祐巳ちゃん、目瞑って手出してみ?」

「なんです?」

キョトンとして笑った祐巳ちゃんは、素直に目を瞑って勢いよく手を差し出した。

その上にそっと、今朝までかかって作ったチョコレートの入った箱をおくと、

祐巳ちゃんは待ってました!とばかりに目を開く。

そして箱を見て立ち上がった祐巳ちゃんはその場で何度かクルクルとターンして喜んだ。

いや、でもそんなに喜ぶほどの物は入ってないんだけど・・・そんな言葉をどうにか飲み込んだ私は、

とりあえず祐巳ちゃんを座らせる。

「開けてもいいですかっ!?いいですよねっ??」

「う、うん」

どうせダメって言っても開けますけど。祐巳ちゃんはそんな顔してた。だったら初めから聞くなよ、

とか思うけど、まぁそれが祐巳ちゃんの可愛いとこでもある。

箱を少しづつ開けてく祐巳ちゃん。あんまりにもゆっくりで見てるこっちが妙にドキドキしてしまう。

ようやく箱を開けた祐巳ちゃんは、中のチョコを見て小さく笑った。

「美味しそう」

「でしょ?何せコーチが相当怖かったからね。多くの犠牲者の中で勝ち残った3粒よ、それが」

「犠牲者?そんなにも沢山作ったんですか?」

「・・・まあね」

言いたくないけど、途中何度もコンビニに走った。チョコを買い足す為に。

それぐらい失敗したのよ、私は。そして父さんはチョコ食べ過ぎて最後の方はグロッキーだったって事は、

あえて黙っておくけど。選抜された3粒は、他の犠牲になったチョコの意思を継いで今ここに居る。

だから祐巳ちゃん、思いっきり味わって食べてね。

苦笑いしてるであろう私の顔を見て、祐巳ちゃんは3個のうちの一つを口に放り込む。

ドキドキして感想を待つ私。待ちきれなくってとうとう聞いてしまった。

「どう?」

「んー・・・まぁまぁ・・でしょうか」

「まぁまぁ!?」

嘘でしょ!?私は残りの二つのうちの一つを口に放り込んで味わった。

思う存分味わった・・・でも・・・。

「ん・・・まぁまぁ・・・だね」

悲しいかな、味は祐巳ちゃんの言うとおりまぁまぁだった。美味しくもなく、不味くもない。

チョコレートだ。普通の。ああ・・・あれだけ頑張ったのにまぁまぁだなんて・・・。

ガックリと頭を垂れた私の肩を、祐巳ちゃんが慰めるみたいにポンと叩く。

「市販のと変わりませんよ!」

「いや、それフォローになってないし・・・」

「そ、そうですか?」

「・・・うん」

そりゃね、市販のチョコ使ったんだもん。チョコはチョコよね所詮。

特に何か入ってる訳じゃないしさ。

ふ・・・ふふふ何だかあんなに頑張った自分は切なくなってきたよ、祐巳ちゃん。

落ち込む私を見て、祐巳ちゃんが最後の一個を口に放り込んでそっと目を閉じた。

「なに?」

「最後のは二人で食べましょうよ」

「誘ってるの?」

「さあ?」

目を閉じた祐巳ちゃんの口の端がキュって上がる。私はだから、遠慮なく半分もらう事にした。

何となく、さっき食べた奴よりも美味しい気がする。多分気のせいだろうケド。

「ん・・・っふ・・・っむ」

「ん・・・ちょっと、半分くれるんでしょ?」

「ふふ・・・取れるものなら取ってみてください」

そう言った祐巳ちゃんの挑戦的な顔を見て、私は笑ってしまった。

バレンタインデー・・・そんなに悪いもんじゃない。自分で作るのも案外悪くないかも。

そんな事を考えながら祐巳ちゃんの口の中で溶け始めたチョコレートを二人で舐めた。

しばらくしてチョコレートが無くなったら、次は・・・。

外はもう真っ暗で何も見えない。電気も消えて、まだ寒いのに暖房も切って。

それでも私達は暖かかった・・・チョコレートなんてあっという間に溶かしてしまうほどの熱。

また来年もこんな風にじゃれあってたい。いつまでもいつまでも・・・ずっと。


おまけ『予想外の贈り物』

 
「だから!どうしてこんなの作ったのよ!!」

「だ、だって!最初はそりゃヤバイなって思ったんですよ!?

でもね、何だか作ってるうちに楽しくなってきちゃってっ!」

私はリビングに置かれた超巨大なチョコレートを前に、一生懸命言い訳を考えてた。

夜の8時、ちょうど晩御飯を食べ終えた頃、それは届いた。

そう、昨日私が一生懸命作ったチョコレートが。

それを見た聖さまは箱を開けるよりも先に何かに感づいたみたいで、やっぱり怒られちゃったんだ。

「で、どうするのよ?これ」

「どうするって・・・食べるんですよ、聖さまが」

「食べられる訳ないでしょーが!!!このバカっ!!」

「バカ・・・バカって言ったーーーーっ!!!」

泣く振りして机に突っ伏した私を横目にリボンを解き始めた聖さま。

中を見て愕然としてる。でも、おかしいな・・・そんなに変なものは作ってないんだけど・・・。

「ねぇ祐巳ちゃん・・・これ、本当に祐巳ちゃんが作った奴?」

「そうですよ・・・私が心を込めて彫ったんですよ・・・」

「本当の本当に?」

「しつこいですねっ!本当だって言って・・・る・・・」

立ち尽くした聖さまの視線の先には、両手を合わせた大きな大仏様の姿。

おかしい。私が作ったのは大きなハートだった筈。大仏様を真剣に彫ってたのは、そう・・・志摩子さんだ。

それがどうしてここに・・・?その時だった。携帯が鳴った。

『祐巳さん!?あのね、私の大仏さま・・・そっちに行ってない!?』

「う、うん・・・来てる・・・よ」

『やっぱり!!祥子さま間違えたんだわっ!!ど、どうしましょう?』

「どう・・・と言われても・・・」

こんなのどう考えても運べないし、動かす事も出来ない。

仕方ないから、私達は取り違えた事は忘れようって事で手を打った。

乃梨子ちゃんには悪いけど、仕方ない。幸い私の作ったチョコには文字も何も入ってないし・・・。

そこまで考えて八と我に返った。いいや、彫った!私は確かに彫った!!かなり恥ずかしい事を!!!

電話を切った私の耳に聖さまの呆れたような声。

「で、私はこの大仏を食べればいいわけ?」

「・・・はい・・・どうぞ、美味しいと思いますよ・・・」

「罰あたりそうであんまり食べたくないんだけど」

「でも食べなきゃ溶けてもっと悲惨な事になりますよ?」

「・・・だよね。食べるわ、この頭のぶつぶつから」

パキ・・・モグモグ。パキ・・・モグモグ。無言で大仏様の頭を食べる聖さま。

その図が何だかシュールでおかしい。

でも、今は私はそんな事よりもあのチョコに掘り込んだメッセージの事で頭が一杯で。

そんな私を見かねたのか、聖さまがチョコを食べる手を止めて言った。

「どうしたのよ?そんな変な事書いたの?」

「ええ、まぁ・・・ああ、どうしよう!!私ったらテンション上がっちゃって好き勝手書いちゃって!!」

「いいじゃん。何書いたのよ?」

「そ、それが・・・」

口に出して言うのはほんと恥ずかしいんだけど、

あれは元々聖さまに宛てたメッセージなのだと自分に言い聞かせた。無理矢理。

「あのですね・・・その・・・」

「うん?」

「その・・・ああ、ダメ!!やっぱり言えない!!!」

「なによそれ!!人に期待させといて!」

「だ、だって〜〜〜〜」

私がチョコに書いたのはね、聖さま。ほんとに恥ずかしいんですよ、察してくださいよ。

あれを受け取った乃梨子ちゃんは、一体どんな反応を示すのか、

それも怖いけど何よりもどうしてあんな事を書いてしまったのか、そっちの方が信じられない。

人間、テンションだけで何かするとロクな事にならないっていい教訓だよ・・・。

聖さまは大仏様をかじりながら、それからはもう何も聞いてこなかった。

「美味しいですか?」

「ん。甘いけど・・・ね」

「コーヒー入れてきますね」

「うん、お願い。ありがと。・・・ったく、どうしてこんなデカイもん作るかな・・・」

背中に聞こえる聖さまのグチは、どこか楽しそうだった。

何だかんだ言ってもチョコをもらえたのはやっぱり嬉しいみたい。

例えそれが間違えて届けられてたとしても、ね。そんな聖さまを見て、私はポツリと言った。

「チョコもいいけど・・・私もね・・・」

「・・・は?」

「私が書いたメッセージです。そう書いたんですよ」

私の言葉に、聖さまの手が止まった。そして一瞬の間を置いて・・・大爆笑。

「マジで!?嘘でしょ!?」

「・・・大マジです。ああ、もう・・・自分が憎い・・・」

「あはははは!!なるほどね。分かった。メッセージはちゃんと受け取った。

・・・けど、とりあえずこれ食べてからね・・・」

「て、手伝います!」

目の前の大きな大仏を見て溜息を落とす聖さま。私はそれを手伝う事にした。

だって、このまんまじゃいつまで経っても大仏は無くならなくて、きっと私まで回ってこないと思ったから。

それに・・・大仏さま食べてお腹一杯になられたら・・・困るもんね!

だってね、聖さま。私・・・聖さまと居るのが、一番楽しいんだ。

だから、チョコ食べ終わったらでいいから、もっともっと私に構って・・・ね?


後日談。

「祐巳さんのあのメッセージのおかげよ!」

「そ、そう?」

「ええ!ありがとう、祐巳さん!」

「いいえ、どう・・・いたしまして・・・」

あのチョコレート。結果的には皆の心に無事にハートが届いたみたい。

志摩子さんと乃梨子ちゃんだけじゃなくて、もちろん、私たちの所にも!

だから・・・結果オーライって事で!

ごきげんよう。















とりあえず、バレンタイン企画上げてみました。

学マリ後編は・・・もうちょっと待っててくださいね(涙)

そんな訳で、急遽・・・つか、突発的に珍しく無事あがったバレンタイン当日SSでした!


学マリ!バレンタインSS〜届けハート大作戦!〜