浴槽にはお湯が見る見る間にたまっていくけれど、ユミは思った。
お湯を溜めてから入れば良かった・・・と。
このホテルはどうやらユニットバスではないようで、お風呂は結構広かった。
お湯を張っている間体とか頭とか洗ったけれど、それでも一向に溜まりそうにはなくて、
ユミはしょうがなく浴槽に頬杖をついてお湯が溜まるのをひたすら待っているしかなかった。
寒いうえに寂しい・・・ユミがそんな事を思っていたちょうどその時、突然浴槽の扉が開いた。
「そろそろお湯溜まった?」
「せっ、聖さま!?な、なんなんですか!!」
「何って・・・お風呂一緒に入れてよ」
セイはそういってどこも隠すことなくズカズカとお風呂場に踏み入った。
「ちょ、私まだ怒ってるんですからね!!」
「あれ?まだ怒ってたの?そろそろ寂しくなる頃かな、と思ったんだけど」
「う・・・」
まるでずっと見ていたように話すセイに、ユミは返す言葉がなかった。
やっぱり、ユミの行動や思考は全てセイに読まれているのだろうか・・・。
「なんてね、本当は私が寂しかったの。だから一緒に入れて?」
セイはそう言って、まだあっけにとられているユミの唇にそっとキスを落とした。
「ん・・・聖・・・さま・・・」
「なぁに?」
「寒く・・・ないんですか・・・?」
「うん、へーき。祐巳ちゃんがあったかいから」
明るい浴室の中で恥ずかしそうに俯くユミをセイは強く抱きしめた。
鎖骨にユミの吐息がかかって少しっくすぐったい。
「せ、聖さま胸・・・・当たってるんですけど・・・」
ユミはちょうど手の所に当たるセイの胸にドキドキした。
初めて裸のセイの胸に触れる・・・柔らかくて、なんともいえない感触・・・。
なんだろう、このドキドキは・・・どうしよう・・・このままじゃきっと・・・。
ユミはセイの鎖骨に顔を埋めて必死にそんな気持ちをどこかへ押しやろうとした。
「ねぇ祐巳ちゃん?たまにはお風呂でするのもいいかもね」
セイはそう言ってユミの体をそっと離すと、湯船の中に体を沈めた。
少し温めのお湯が体を包み込む・・・。
不思議な安堵感と、もっとユミに触れたいという支配感が胸を一杯にする。
「えっ、で、でも・・・あの・・・明るいし・・・その・・・」
「明るいのなんて関係ないよ。私は今祐巳ちゃんに触れたいの・・・」
セイはゆっくりと静かに言った。まっすぐにユミの瞳を見つめる。
困ったような恥ずかしそうなユミの瞳はセイとは合わせようとはしない。けれど・・・。
今触れたい。今、抱きたい・・・。どうしても・・・明るかろうが狭かろうが、そんな事は関係ない。
ユミの体を見るだけで、声を聞くだけで、息がかかるだけでこんなにも自分は理性をなくす。
そしてそれを鎮めてくれるのもまた、ユミしかいない。
セイはユミの返事を聞かず、そっとユミの手を引っ張り湯船に浸からせた。
小さな背中が胸に当たる。きっとセイの心臓の音がユミにも聞こえているだろう・・・。
「祐巳ちゃん・・・名前を・・呼んで・・・私の・・・名前を・・・」
まるでうわ言のようにそんな言葉が口をついて出てくる。
これがもし夢なら、どおうか醒めないで、と心から願う。
「聖・・・さま・・・」
「うん・・・もっと」
「せ・・・さま・・・」
「うん・・・」
泣きたくなるような衝動と、苦しいぐらいの激情に溺れそうになる。
でも、逃げられないのならいっそっこのままどこまでも堕ちてゆくのも悪くないのかもしれない。
セイは目の前にあるユミの首筋にゆっくりとうなじへ向けて舌を這わせた・・・。
「・・・んん・・・っぁ」
「気持ちいい?ねぇ、ちゃんと教えて?」
後ろから抱きしめるようにユミの胸を軽く揉みながらセイは何度も何度も耳元でそう聞いた。
どこがいいのか、どうすればもっとユミが壊れるのか、それを知りたくて・・・。
自分と同じように堕ちていくユミの事が苦しいくらいに愛しくて・・・。
「ふぁ・・・やぁ・・・いえ、ない・・・そんなの・・・」
ユミはあまりの恥ずかしさに顔を両手で覆った。
頭の後頭部の辺りが何かに殴られたみたいにガンガンしてきて、
やがて理性のブレーカーが落ちたみたいに意識が朦朧としてくる。
「はぁ、はぁ・・・っぁん・・・ぅっく・・・」
セイは自分に完全にもたれかかってどうする事も出来ないでいるユミの身体を支えた。
華奢で頼りない身体は、今全てセイが預かっているのだと思うと、胸が熱くなる。
歳よりも幼い顔立ちが苦痛とも快楽とも言えない不思議な痺れに歪んでゆく・・・。
セイは胸の先端にある小さな突起を指で転がしながら、そんなユミの顔をすぐそばで見つめていた。
やがてそれは固く赤くなってゆき、ほんの少し触れただけで、
ユミの身体がピクリと反応するようになりだしたのを確認したセイは、
そっと片方の手を胸からおへそ・・・そして下腹部へ寄り道をしながらすべらせてゆく。
「ぅぁ・・・っんぅ・・・はぁ・・はぁ」
ユミの声は少しづつ音量を増し、浴室ということもあって反響して返ってくる。
「祐巳ちゃん、立って・・・」
「・・・へ・・・?」
「いいから・・・ね?」
セイはそういってユミを立たせ、浴室の壁に押し付けた。
冷たいタイルに背中が触れた途端、ユミはビクンと身体を震わせセイに涙目で何かを訴えてくる。
けれど、セイにはそんな瞳すら誘っているようで・・・。
セイはユミの頭上で両手を押さえ、右手をそっとユミの秘密の場所へとあてがった。
「ひゃんっ」
「可愛いね・・・祐巳ちゃんは・・・」
なんだろう・・・この気持ち・・・自分でも怖いぐらいの狂気は・・・。
「ふぁ・・・聖・・・さまぁ・・・こんなの・・・恥ずかしい・・・」
「そんな今更・・・恥ずかしくないよ・・・ほら、祐巳ちゃんも私を見てよ・・・」
セイはそう言って顔を背けようとするユミの唇を無理やり塞ぎ、舌を入れ深い口付けをする。
「んぁ・・ぁむ・・・っん・・・」
まるでキャンディーでも食べるようにセイの舌を受け入れるユミの泣きそうな表情。
甘い声に、反応する身体と心。もう止められない。止まらない。
「祐巳ちゃん・・・好きだよ」
「あ、あたし・・・も・・・」
「うん・・・知ってるよ」
ユミの秘密の場所にあてがった右手をゆっくりと滑らせ、
なぞるように触れるとお湯ではない液体で既にそこは濡れていた。
「っ!・・・っく・・・も・・・立ってられない・・・」
「ダメだよ、ちゃんと立ってないと」
セイはからかうようにユミの頬に軽く口付けると、そのまま舌を首筋から胸へと這わせた。
そしてさっきよりもずっと赤くなった胸の突起を口に含み、舌の上で器用に転がす。
「ぁっ・・・ぅ・・・っふ・・・」
「気持ちいい?ねぇ、気持ちいいの・・・・?」
「う、うん・・・きもち・・・いい・・・ッ!」
「・・・そう、良かった・・・」
ユミの秘密の場所からは太ももを伝うほどの大量の液体が流れ出して、
足元に水溜りが出来そうなほどだ。
擦るように撫でるようにユミの一番敏感な部分に触れた瞬間、ユミの身体は今まで以上に大きく痙攣する。
「あぁっ!!やぁ・・・も・・・だめぇ・・・」
「いいの?今しゃがんだら・・・」
セイはゆっくりとユミの中に指を差し入れ、優しく中をかき回す。
ユミの中はセイをすんなりと受け入れ、まとわりつくように締め付ける。
「んぐ・・・あっ、あっ、・・・んんっ!!」
「我慢しなくていいよ、誰も居ないし、誰にも聞こえないから」
「で、でも・・・あぁぁぁ!!!!」
頭の中は真っ白で、何かを考える余裕などどこにもないはずなのに、
何故か今までのセイとの思い出が鮮明に蘇る。
初めて抱きしめられた日、初めて口付けた日、初めて愛された日・・・とても鮮明に。
セイが押さえていた手首をゆっくりと離した。
するとどうだろう・・・あっという間に身体から力が抜け、その拍子にセイの指がユミの奥深くに到達した。
「ひっ!!!ぁぁ・・・っくぅ」
鈍い痛みとまだ触れられた事のないその場所が快楽に震える。
「・・・いたい?」
セイはユミの耳元で静かに呟いた。けれど、ユミはボロボロと涙を流しながら首を横に振る。
新しい快楽を受け入れたユミにとって、それは痛みよりもずっと幸せだったのだろう。
うっすらと浮かべた笑みが、セイにそれを教えてくれた。
「そう、良かった」
震えるユミの足元にしゃがみこんだセイは、ユミの一番敏感な部分に静かに舌を這わせ、
指をゆっくりとユミの中で泳がせる。
そえに合わせるようにユミの身体はビクンと震え、声が大きくなる。
「あっ、あっ、んん、っふ・・・ッ!」
下から突き上げてくる衝動がユミの中心を駆け抜けて全身に回る。
今日のセイは凄く乱暴で激しいのに、それがこんなにも嬉しく思うのは、
きっとセイの知らない一面をまた新しく見ることが出来たからなのだろう。
誰も触れる事の出来ない・・・ユミにさえ届かないユミの中を自由に出入り出来るのはこれからも、
きっとずっとセイだけだろう。そんな事を考えると、感動なのか痛みなのか、よく分からない涙が溢れてくる。
「祐巳ちゃん、そろそろイカせてあげる」
セイは妖しく笑うと、必死になって何かを堪えているユミの更に奥へと指を鎮めた。
「ぁっ!!」
「ほら、もうすぐだよ?もうすぐだから・・・」
「う・・・ん・・・うん・・・はっ、んん・・・せ、さま・・・聖さまぁ・・・す・・・き・・・聖さまぁ!!」
小刻みに震える振動がさらにユミを高みへと上らせようとする。
でも、今はその流れにのまれないよう必死に我慢して・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・」
セイはユミの一番な部分をそっと口に含んだ。まだだ・・・心の中でそう呟きながら。
そしてユミの身体から最後の力が抜けたその時、ユミの中の一番奥に手が届いたその時、
口に含んでいたそれをギリ・・・と軽く噛んだ・・・。
「ぅっ・・・ッぁぁぁぁあああああああ!!!」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
でもそれは確実にやってきて、ユミの身体を、魂をフワリと持ち上げたような気がした。
自分でも驚くほどの歓喜とも恐怖ともいえない声が口をついてでた。
背中のタイルは汗でグッショリと濡れ、足元には小さな水溜りが出来ている。
それを見てようやくユミは理解した。どれほど自分がセイに感じていたのかを。
セイの愛に応え、セイの身体を、心を感じた・・・全身で。
「祐巳ちゃん、今日はすごかったね?・・・祐巳ちゃん?祐巳ちゃんっ!?」
セイはその場に崩れ落ちたユミの身体を抱き起こした。
けれど、肩を揺さぶってもどれほど呼びかけても目を開こうとしない。
どうしよう・・・もしこのままユミを失うなんて事になったら・・・。
セイはグッタリとして動かないユミの身体を抱きしめたまま祈るような想いでユミの名前を呼び続けた。
「ん・・・せ・・・さまぁ・・・?」
「あ、やっと起きた?」
「えっ!?わ、私・・・?」
ユミはガバっと勢いよく起き上がると部屋の中を見渡した。
すると、確かにさっきまではお風呂場にいたはずなのに、
何故か今はきちんとバスローブを着てベッドの上に居る。
キュンと甘い痛みが下腹部の奥からしたような気がする・・・。
「びっくりしたんだからね?祐巳ちゃんってば失神しちゃうんだもん。どうしようかと思ったじゃない」
「し、失神・・・?私が?」
そう言えば何か凄く幸せな夢の中でずっとセイの声を聞いていたような気がする。
けれど、まさか気を失っていただなんて・・・。
「本当に焦ったんだからね!・・・まぁ、悪いのは私なんだけどさ・・・ごめんね?痛かった?」
セイはそう言ってユミをゆっくりベッドに押し倒し、ユミを確かめるように抱きしめた。
お風呂から上がって随分と経つのに身体はまだ温かい。
どれほどの想いでセイを受け入れてくれたのか、と思うと嬉しくて泣きたくなってしまう。
「い、いえ・・・謝らないでください!!その・・・気持ちよかったですし・・・嬉しかったから・・・」
そう言ってユミはセイにしがみついた。
ドクンドクンとセイの心臓の音がこんなにも近くで聞こえる。
「・・・そうなの?」
ユミの以外な答えにセイはユミを凝視した。あんなにも苦しそうで辛そうだったのに?
それでも幸せだったと言ってくれるの?
けれえどそんなセイの不安はユミの最高の笑顔の前に一瞬にして吹き飛ばされた。
「・・・はい・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って笑うユミの顔はもう少女などではなく、綺麗な大人の顔だった。
穏やかで緩やかな陽だまりのような笑顔・・・。
その笑顔を見て、セイもつられて嬉しくなってしまう。
「ねぇ祐巳ちゃん!私たち、やっぱりこれからもずっと一緒にいよう?ずっと、ずっと!永遠にさ」
何故こんな事を言ったのかは自分でも分からない。
けれど、そんな先の見えない話なのに、しかも約束でもなんでもない言葉なのに、
ユミは何も言わずやっぱり穏やかに笑って言った。
「はい、もちろんですよ」
と。
冬が来る。御伽噺の結末は誰にも知られずにひっそりと終わった。
それを誰かが知るには、まだ早いからだ。
その後の事など誰も知らぬままお話は終わり、やがてまた新しい話が作られる。
けれど、世界に一つづつしかない御伽噺たちは、今もずっと本の中で息づいて春が来るのを待っている。
保障もない。
約束もない。
自信もない。
何も無い。
でも、いつだって私たちはここに居る。
いつだって誰かが私たちを見守ってる。