日がさして、こんなにも暖かい。


日が翳ってこんなにも寒い。


まるで天気みたいなキミと、ずっと居たい。


台風がきても、嵐がきても、必ず晴れる。


そう・・・思うから。






「どこに行きたい?祐巳ちゃん」

ホッとしたような幸せそうな笑みをうかべるセイを見て、ユミは思わず両手で顔を覆った。

ここ数日なるべく普段どおりに接してきたつもりだったけれど、

セイのこんな表情を見てしまえばそんな考えはどこかへ行ってしまう。

心のどこかに引っかかっていたセイの言葉や態度でまた新しいセイの一面を見ることが出来て嬉しい反面、

傷ついたのも確かなわけで。

今セイのこんな顔を見てこんなにも恥ずかしくて泣きたくなるのは、きっとまだどこかにセイを許せない部分があったのだろうか。

だからこんなにも今、無性にセイに抱きしめてほしいと思うのだろうか・・・。

ユミは顔を隠していた手を下ろすと不思議そうにこちらを見つめるセイに笑顔で言った。

「そうですね・・・どこか静かで涼しい場所に行きたいです!二人で・・・ゆっくりしたいから・・・」

普段なら顔から火がでそうなセリフも、何故か今日は自然に言う事が出来る。

これはもしかすると、いつものセイの魔法なのかな?なんて一瞬思ってしまう。

もしかしたら喧嘩した事さえも、セイの思惑どうりなんじゃないか、と。

もしそうだとしても・・・それならそれでいい。今こんなに幸せで居られるなら、それでいいのだろう。きっと。

何やら難しい顔をして考え込むユミを訝しげに見つめながらセイは内心ビクビクしていた。

次は何を言われるのか?それを考えただけでもドキドキする反面、何故か楽しい。

「私って・・・マゾなんだろうか・・・」

「へ?何か言いました?聖さま」

ポツリと言ったセイの言葉にユミがパっと顔を上げた。

「い、いや?それよりも!静かで涼しい場所に祐巳ちゃんは行きたいの?」

「はい!どこに行ってもきっとゴールデンウィークは一杯でしょうし・・・。

どうせどこか行くなら聖さまと二人きりになりたいし・・・ダメ・・・ですか?」

「え・・・いや・・・その・・・」

キラキラした瞳だけをこちらに向けてそんな事を言うユミに、セイが敵うはずもなく・・・。

「わかった。探してみる。そのかわり・・・私と二人きりになるって事は・・・覚悟しててよ?祐巳ちゃん」

口の端だけをニヤリと上げて意地悪な笑みをうかべるセイに、ユミの顔はやや引きつる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「祐巳ちゃんも大胆になったねぇ。お姉さんは嬉しい」

セイの顔を見て自分の言った言葉の重みに気づいたユミはそれを聞いて、もう黙り込むしかない・・・。

「祐巳ちゃん?どうしたの?」

機嫌よく口笛なんて吹きながら笑うセイの顔は、本当にあの元白薔薇様なのか?と思うほど緩みきっていて、

そんな顔を見たユミもまたいつものように、まぁいいか、と許してしまう。

「いいえ?なんでもありませんよ」

ユミはそう言いながら心の中で、聖さまって・・・可愛い・・・、と呟いた。




場所さえ決まれば後は早いもので、スイスイと決まるに違いない!

そう・・・きっと二人ともそう思っていたのだけれど・・・。

「なかなかいい所ないねぇ」

「そうですねぇ・・・」

ユミはセイがさっきから放り投げているパンフレットを一つにまとめると、トントンとそれを揃える。

いつもどうり夕飯を食べた後二人でかれこれ一時間ぐらいパンフレットと睨めっこしているが、なかなかいい所が見つからない。

パンフレットに載っているものはどこも観光地。

いい!と思ったところに電話してみてもどこもすでに満員状態・・・。

さっきからずっとそれの繰り返しで、なかなか思いどうりに事が運ばない。

「あぁぁ、もうヤケだ!!」

「せ、聖さま!?」

「静かそうな所片っ端から電話してやる!!」

「・・・・・・・・・・・・聖さま・・・」

そう言うなりセイはユミが止めるのも聞かず、番号を押し始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

一体どれぐらい電話をかけていただろうか・・・。

やがて電話の応対をするセイの口元に笑みがこぼれたのが見えた。

ユミは向こうの声が聞こえるようセイの耳元に自分の耳を近づけると、微かではあるが言葉の端々が聞き取れる。

そんなユミに、セイは身振り手振りでユミに何か書くものを持ってくるよう伝えると素早く何か書きとめ電話を静かに切った。

「ど・・・どうでした?」

不安げにそう聞くユミに、セイは小さく指で○を作るとウインクをなげかけそのまま部屋のすみにあるパソコンの前へと移動する。

「祐巳ちゃん、こんな所なんだけど・・・どう?」

メモを片手にパソコンを起動して何かを打ち込んでいたセイが、イスを少しずらしユミを呼ぶ。

ユミは、どれどれ?とセイの肩にアゴを置くと画面をじっと見つめた。

「わぁ・・・綺麗ですねぇ・・・」

「まだ観光地っていうほど拓けてないらしいんだけど、静かなのは保障します、ってさ。

ちなみに離島らしいんだけどさ」

「へぇ・・・確かに静かそうですよね・・・離島・・・まさか無人ってことはないですよね?」

「それは流石に無いと思うけど・・・パンフレットにも出てるらしいから」

画面いっぱいに映し出される一面の緑・・・というか、山。

確かに静かそうだが、本当に何もなさそうな所だった。

でも、二人で静かな所に行きたい、というユミのリクエストにこれはかなりピッタリだろう。

「どう?ツアー申し込んでみる?」

「はい!」

ユミは嬉しそうに頷くと、セイの首に抱きつく。

こんな時、本当にセイは頼りになる。

すぐに物怖じするユミとは違い、サッサと問題を片付けるセイは、ユミから見ればまるでスーパーマンのようだ。

「よし!じゃあそうと決まれば早いとこ申し込んじゃおう」

セイはカチャカチャとキーボードを叩くと本当に素早く申し込みを済ませてしまう。

「あ、そうだ、祐巳ちゃん。乗り物酔い・・・する方?」

「へ?」

ユミは突然のセイの言葉に自分の耳を疑った。しかし、そんなユミには目もくれずセイは続ける。

「船とか、電車とか大丈夫だよね?」

フネ?デンシャ?一体何の事だろう?そう思いながらユミは考えてみる。

セイの車で酔わないのだから、大抵の乗り物は大丈夫だろうけど、生憎船はどうだかわからない。

「え?ええ、まぁ・・・多分大丈夫だと思いますけど・・・」

「そう、なら良かった」

セイはホッとしたように胸を撫で下ろすと、イスごとこちらを向いてユミの肩をポンと叩く。

「交通手段は夜行列車とフェリーだからそのつもりでね?祐巳ちゃん」

「え?え、ええええええ!!!???」

あまりのユミの驚きように、流石のセイも予想外だったのか思わず両手で耳を塞いだ。

そしてほんの少し口をとがらせ、ユミのオデコをコツンとこづく。

「何よ、離島だって言ったでしょ?まさか海を車で渡ろうと思ってたの?」

あっけらかんと言うセイに、ユミはあんぐりと口を開けたままその場に立ち尽くす。

「あ!言うの忘れてた。それさえ乗り越えれば秘湯があるらしいから!」

「ひ・・・ひとう?」

「そう、秘密の湯。略して秘湯。どう?行きたいでしょ?もしかすると温泉でも二人きりになれるかもよ?」

「・・・ふ・・・二人きり・・・温泉・・・」

温泉・・・二人きり・・・夜行列車・・・フェリー・・・。

全てを天秤にかけるとどちらが重いだろうか?そんな事を考えているユミの顔は表情がコロコロと変わる。

セイはそんなユミの百面相を楽しそうに見つめながら、口元を手で覆い必死に笑いを堪えていた。

「そ、そんなに悩まなくてもいいじゃない、別に」

くっくっくっ、と肩を震わせるセイ。そして、いつもの意地悪は笑みを浮かべると言った…とても楽しそうに…。

「ねえ祐巳ちゃん。夜行列車とフェリーはもしかして初めて?」

「・・・はい。それがなんです?」

「いや・・・今からそんな調子じゃ、先が思いやられるなぁ、って思ってさ」

セイはそう言ってユミの腰に手を回しグイっとユミを引き寄せ膝の上に座らせると、

ふふ、と笑いながら、まだ不安そうなユミの唇に自分の唇を重ねた。

不意打ちだったためか、ユミの目はさらに大きくまん丸になっている。

「楽しくなりそう」

セイはそう言ってユミを抱きしめる腕に力を込めて、ユミの胸に顔を埋めるとまるで子供みたいに笑っていた。





慣れてしまうのは面白くない。


日々の中に新しい事を発見するように、


アナタの中にも新発見。


それを見れる幸せや、成長する心は、


きっと誰にも止められない。








今日のお題:

聖さまの言った、「いや・・・今からそんな調子じゃ、先が思いやられるなぁ、って思ってさ」です!

夜行列車、フェリー共に初体験の祐巳。

一体どうなってしまうんでしょう?皆様、どうぞよろしくお願いいたします!











幸せな日々   第二話