私は何も知らない。

面白い事にしか興味がない。

それでも出来るだけ、親友を助けたいとは思う。

でも・・・その親友が何も話さないんじゃ・・・私は助けられない・・・。






「あら、令久しぶりね、どうかしたの?」

私は本当に久しぶりにかかってきた可愛くて格好良い妹からの電話を喜んだ。

「お姉さま・・・あの、ちょっと聞きたい事があるのですが・・・その、今お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、かまわないわよ。なんなら外で会いましょうか?」

「あっ、はい。そうしてもらえるとありがたいかもしれません・・・ここじゃちょっと・・・」

「それじゃあどこがいいかしら?」

「えっと・・・それでは・・・」

レイは私にケーキが美味しいと評判の喫茶店の名前を告げるとそのまま電話を切る。

三時のおやつ、というには時間はまだ随分と早い。

それでもなにやら切羽詰ったレイの声から、私は何となくヨシノの事かな?なんて想像していたのだけれど・・・。




「ごめんなさいね、少し遅れたかしら?」

窓際から一番遠い、秘密の話にはもってこいの場所。そこにレイは居た。

レイは何やら神妙そうな顔つきでしばらく新聞のようなものと睨めっこしていたけれど、

私の姿を見つけるなりパッと表情を輝かせる。これだからこの子は本当に可愛い。

レイの向かいの席に腰を下ろした私に、レイは笑顔で首を振った。

「いいえ、まだ約束の時間の5分前ですから」

「そう?なら良かったわ」

レイは体育会系・・・基本的には15分前にはいつもきちんと約束の場所にいるような子だ。

だから私はいつも約束の時間よりも少し早めに到着するようにしていた。

もしこの相手がセイだったなら、きっと多少遅刻してくるのだが。

私がレイの向かい側に腰を下ろしたと同時にまるで座るのを待ってたみたいにウェイトレスがやってきた。

「いらっしゃいませ、ご注文はいかがいたしましょう?」

「私はレモンティーと、このケーキの盛り合わせで」

「あ、私も同じものにするわ」

「かしこまりました」

ウェイトレスはサラサラと手に持っていた紙にペンを走らせ、さっさと店の奥へと消えてしまった。

「先に注文していてもよかったのに」

「いえ、お姉さまが来るまでに冷めてしまうかと思いまして・・・でも、その心配は無かったみたいですね」

「そう、ありがとう令」

どうやら先に食べているとかそういう事は全く考えなかったらしい・・・。

なんというか、本当に律儀というか、なんというか・・・まぁ、それが可愛いのだけれど。

これがヨシノなら迷わず先に食べているのだろうな・・・なんて思うと笑いが込み上げてくる。

突然笑い出した私にレイは不思議そうな顔をしている・・・。

「ところで、今日は一体どうしたの?」

「あ、はい。それがですね・・・実は先日こんなものが学校で出回りまして・・・」

レイは私の質問に、そうだった、と手を打ってさっき睨めっこしていた紙を取り出し私の方にツイと差し出した。

「あら、懐かしい。リリアンかわら版じゃない。珍しく写真がないのね。これがどうかしたの?」

「はい・・・その、とりあえず中身読んでもらえますか?」

レイの真剣な顔つきに、私もただ事ではなさそうな気がしてくる。そして何か面白そうな・・・そんな予感がしていた。

「お待たせいたしましたー」

「あ、すみません、置いておいてもらえますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

私が新聞を読んでいる間、レイは紅茶にもケーキにも手をつけず、ただ黙って何か考え込んでいる。

ようやく記事を読み終えた私が新聞をレイに返すと、レイは神妙そうな顔つきで私に聞いてきた。

「どう・・・ですか?」

「・・・どう?とは?」

読み物としてはあまりにもつまらない。とてもありがちなシチュエーションだと思う。

そもそも、この三人がうじうじしていてつまらない。もっと、こう派手な展開にすれば面白いのに。

「じつはですね・・・この三人っていうのが、どうやら祐巳ちゃんと聖さまと、柏木さんだって噂なんですよね・・・」

ぶぅぅぅ!!!

思わず。思わず飲んでいた紅茶をレイの顔に思いっきり噴きかけそうになった。

なんですって!?

声にならない声に、レイは苦笑いしている。

「そ、それは確かなの?」

「いえ、ただの噂です。本当に何の根拠もないただの噂なんですが、

この記事が出てからというもの祥子と祐巳ちゃんの様子がおかしいんですよ。

だから、聖さまが絡んでいるのなら、お姉さまなら何か知ってるんじゃないのかな?って・・・思いまして・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

なるほど・・・レイは親友のサチコの事を心配して私を呼び出した、という訳か。

「何か・・・聞いてませんか?聖さまから・・・その・・・祐巳ちゃんの事とか・・・」

「いいえ・・・私は何も聞いてないわ。そもそも聖がそんな話誰かにするとは思えないし・・・。

それにそんな素振りを少しでもしたら私や蓉子が黙ってない事ぐらい聖も解ってるんじゃないかしら」

多分、あの人は・・・セイはきっと私達には何も言わないだろう。いくら親友とはいえ、セイはそういう人だ。

精神的にとても脆いように見えるけれど、その実結構芯はしっかりしているし、何よりもとても頑固で・・・。

黙っていると決めたらきっと何があっても言わないだろう。

「・・・そうですか・・・お姉さまも何も知りませんか・・・」

「ええ、悪いわね。力になれなくて・・・。でも、ただの噂なんでしょう?それならそんなに気にする事も無いんじゃない?」

「それはそうなんですが・・・ただ、目撃者も中には結構居たみたいで、今これのせいで学校中その噂で持ちきりなんです・・・。

その噂が膨らめば膨らむほど祥子は元気がなくなるし、そうしたら必然的に薔薇の館自体がピリピリし始めて」

ハァ、と大きなため息を落とすレイ。どうやら上級生の責任というものを今ヒシヒシと感じているらしい。

それにしても一つ気になるのは・・・。

「でもねぇ・・・いくら目撃者が居るっていっても、聖と柏木さんは無いでしょう」

そう、あれだけ毛嫌いしていた銀杏王子の事をセイが好きだなんて考えられない・・・。

それならば、あれだけ気に入っていたユミの事をセイが好きだといったほうがまだ頷けるというもの。

まぁ、ユミが誰を好きかなんて明白だとは思うのだけれど。

私が言った言葉にレイもうんうんと頷いている。

「そうなんですよね。いくら噂とは言え、あの二人が一緒に喫茶店でお茶をしてた時点で既に信じられないんですよ」

「あら、二人でお茶してたの?聖と柏木さんが!?それは・・・ちょっと見てみたいわね・・・」

・・・不思議空間だ・・・セイと王子のお茶会なんて、きっとこの先どんなに時間が過ぎても見られるものではない。

そんな光景、是非この目で見てみたかった・・・などと言ったらきっとレイは目を吊り上げて怒るだろう。

「何言ってるんですか!!そんな事言ってる場合じゃないんですよ〜。もう私どうしたらいいか・・・」

「落ち着いて、令。ちゃんと祐巳ちゃんに真実は聞いてみたの?」

「はい。祐巳ちゃんはハッキリ否定したんですよ・・・だからこそ余計に祥子の態度が気になって・・・」

「そう・・・でもね、令。祥子はきっと少し混乱してるだけなんじゃないかしら?

そんな根も葉もない噂がどうして流れたのかそれを気にしてるんじゃなくて?」

まぁ、火の無いところに煙は立たない・・・とも言うが・・・それはあえて今は黙っておこう。可愛い妹の為だ。

「そうですか!?・・・そうですよね!!根も葉もないただの噂話ですもんね!!

なんだかお姉さまにそう言ってもらって安心しました!さっ、食べましょう、お姉さま!!

ここのは美味しいって前から評判だったんですよ!」

「令・・・私、貴女のそういう所・・・とても好きだわ・・・」

私のセリフにキョトンとするレイ・・・口の端にはスポンジケーキがくっついている・・・。

なんというか、とても素直で適当に言ったのが申し訳なく思えてくる。

これはやはりセイに直接聞いたほうが良さそうだな・・・なんて、ちょっと思ってしまう。

だって、こんなにも可愛くて、素直な妹がこんなに悩んでいるんですもの。

ほんの少しぐらい手助けしてやっても、きっとバチは当たらないだろう・・・。

ケーキを頬張るレイの顔は何か憑き物が落ちたみたいにさっぱりしている。

「どうです、お姉さま。美味しいでしょう?」

「ええ、ほんと・・・甘くなくてとてもさっぱりしてるわ」

そう、まるで今の貴女の顔みたいに。

私は小さく笑うともう一口ケーキを口に運んだ・・・。

さっぱりしてビターなチョコレート。

私の好みを、レイは本当によくしっている・・・。



親友の為にこんなにも気を揉んで、私の一言であっという間に幸せ顔。

私はどうだろう?親友のために何か出来るだろうか。

セイは今、一体何を想っているのだろう・・・。









面白い事を日々の中に捜す。


それは大抵興味のある事で、それ以外にはあまり感心がない。


そして今、とても気になっている。大事な親友の事が。


でもきっと、私には何も言ってくれないのだろう。


寂しく思うけれど、別にいい。


だって、私はあの人のそういう所、実はとても気に入っているのだから。
















それぞれの告白   第六話