繋いだ手がアツイ・・・。



まだ開演まで10分もあるとゆうのに、

イルカショーの会場はすでに沢山の人で埋め尽くされていた。

セイとユミは二人分空いてる席を見つけるとそこに座る。

「何か飲むもの買ってこようか。ゆみちゃん何がいい?」

「えっ!?いいですよ!私が行ってきますから。」

「いいって。ここは先輩の言葉に素直に甘えなさい。」

なんだか口調が紅薔薇様みたいだ・・・。

「…わかりました。じゃあオレンジジュースをお願いできますか?」

ユミはそう言って鞄から財布を取り出そうとしたが、セイがそれを止めた。

「ここは私のおごり。じゃあ買ってくる。」

セイはそう言って元来た道を歩いていった。

しばらくすると後ろの方からセイの声が聞こえてきた。

知り合い?何やら20歳ぐらいの女の人と話している。

ユミは首をかしげながらその様子を見ていると、

セイはこちらに気づいたのかさっさと話を切り上げて戻って来た。

「ごめんね。遅くなちゃった。」

セイはそう言ってユミの隣に腰を下ろすと、

買ってきたばかりのオレンジジュースをユミに手渡した。

「いえ!遅くなんてなかったですよ。ただ…良かったんですか?あの人知り合いだったんじゃ。」

「?今の人?いや、知り合いじゃないよ。全然知らない人。」

「…はぁ。じゃあ迷子ですか?」

「いや、ただ一緒に見て回りませんか?って聞かれたの。」

「い、一緒にですか?」

も、もしや、それは・・・。

「うん。でも大事な子と来てるからって断ったよ。」

「そ、それって・・・。」

ユミが言うのをためらっているとセイはシレッと答えた。

「俗に言うナンパだね。」

あまりにもセイがあっさりと言い切るものだからユミは思わず噴出しそうになる。

「ナ、ナ、ナンパ!?」

ナンパなんて生まれてこのかたされた事ないよ!!いや、されても困るけど。

「しょ、しょっちゅうされるんですか?」

「そんなしょっちゅうはされないよ。たまにだよ。ごくたま〜に。」

「で、でも女の人でしたよね?」

「そうだね。でも私は女の人にされる事の方が多いかな。

ゆみちゃんは女の人に言い寄られるのはイヤ?」

セイの真剣な問いにユミは言葉が詰まった。

イヤかそうでないか考えてみる。

例えば今みたいに見知らぬ人に突然声を掛けられるのは?

それはイヤかな。でもそれは男の人だって同じ事だ。

でも、でももし、相手が大好きなお姉さまなら?…どうだろう。

イヤと言うほどではない。

いや、むしろ嬉しいかもしれない。

「それは・・・相手によるかと・・・思います。

でも知らない人は男の人でも女の人でもあまりいい気分ではありません。」

ユミの答えにセイはにっこり笑った。

「うん。私もだよ。…で、ゆみちゃんは誰ならいいの?祥子とか?」

セイはさっきとはうって変わって意地悪な笑いを浮かべている。

「う、そ、それは。」

ユミが顔を真っ赤にしてうつむくとセイは面白がってユミの顔をのぞきこむ。

そして突然口を開いた。

「じゃあさ、もし私なら?」

「へっ?」

「もし私が、キミが好きって言ったらゆみちゃんどうする?」

「聖様が・・・?」

ユミはセイに告白されるところを想像してみた。

目の前にいるセイが笑って自分を好きだといったら?

心臓が破れそうなぐらいドキドキするのがわかる。顔も真っ赤になってゆく。

サチコと自分の場合を想像したときとはあきらかに違う。

「わ、わかりませんよ!!そんな突然言われても!!…もう、恥ずかしいじゃないですか。」

ユミはそう言って顔を両手で覆った。セイはそんなユミを見てケタケタと笑っている。

やられた!からかわれた!!

「じゃ、じゃあ聖様はどうなんです?もし私が好きって言ったら?」

どうだ!!突然言われたら困るでしょう?

しかしセイは笑うのを止め、優しく微笑んだ。

「うれしいよ。すごくうれしい。」

セイは短くそう言ってジュースを飲んだ。

うれしいに決まってるじゃない。キミにそんな事言われたら私は・・・。

ポカーンと口を空けて顔を赤らめているユミを見て、ああ本当にかわいいな。と素直に思う。

でもまだダメだ。まだキミには言えないよ・・・。

そしてセイは笑いながら言った。

「ゆみちゃんなら即OKだよ!」

ククク、と笑いをこらえているセイにユミはまた顔を赤らめる。

だ、ダメだ・・・この人にはきっと一生勝てない・・・。

「も、もう知りません!!」

ユミはまだ笑っているセイにプイと背をむけた。後ろでごめんごめんと声が聞こえる。

もう!当分口きいてやらないんだから!!本気で焦っちゃったじゃない!聖様のばか!!

なんだか涙がこみ上げてくるのがわかる。そうショックだった。

セイがナンパされていたのも冗談で好きだといった事も。

私はお姉さまが好きなんだから!

そうよ、お姉さまが大好きなのよ?なのにどうして焦ってるの?

「ゆみちゃん!ほら始まるよ!見たかったんでしょ?」

「えっ?わぁ・・・。」

ユミは怒っていたのも忘れてイルカのジャンプに見入った。

まるで空に帰るような高いジャンプ。

「なんだか空に帰ろうとしてるみたいに見えるね?」

セイの言葉にユミは驚いた。

そう!!まさにそれ!!今私も同じ事思ってました!!

「…いま、私も同じ事言おうとしてました。」

ユミがぽつりと呟くとセイはうれしそうに、そう?と笑った。

その後はあんまりよく覚えていない。

あんなにキレイだったイルカもセイの前では霞んでしまっていたように思う。

・・・しかしだ。いつまでもやられてばかりでは腹の虫も収まるまい。

ユミはまるでヨシノが舞い降りたように感じた。

よし、ここはひとつ聖様の照れた顔が見てみたい!

そう言えば今まであまりセイが照れているところなんて見たことないような気がしたのだ。

ユミがあれやこれやと考え込んでいると、突然マイクの音が場内に響いた。

「はい、じゃあ太郎君達と握手してみたいお友達はいるかなぁ〜?」

イルカのお姉さんがそう言うとあちらこちらで手が上がるのが見えた。

よし!これだ!!ユミはポンと手を打つと、

隣で優雅にジュースを飲んでいたセイのわき腹をくすぐった。

セイは思わずジュースを落としそうになっている。

「わっ!な、何!?ゆみちゃんとつぜ・・・ん?」

「はい!じゃあそこの大きなお友達も前に出てきてくださぁ〜い!」

セイはユミが突然わき腹をくすぐったものだから驚いて立ち上がっただけなのに、

どうやらイルカと握手できる権を手に入れてしまったらしい。

「い、いや、あの・・・これは。」

セイがチラリとユミを見るとユミは嬉しそうに笑っている。

周りからも割れんばかりの拍手が上がっていて引くに引けない。

や、やられた・・・。これはさっきの仕返しだろう。

・・・それにしても羞恥刑か・・・。なかなかやるじゃない。

きっと今ここに江利子がいたらさぞ喜んだ事だろう。

セイはしぶしぶ前に進み出るとプールサイドに他の子供たちと並んで立った。

「こ、これは恥ずかしい・・・。」

セイは自分の顔が赤くなるのがわかって思わずうつむいた。

目の端にチラリと映ったユミはうれしそうに手など振っている。

ユミは俯きっぱなしのセイを遠くから眺めながら、思わず笑いそうになるのをこらえた。

て、照れてる。やりましたよ!お姉さま!!

一矢報いる事が出来ました!!それにしても聖様ってば可愛い!!

結局始終うつむきっぱなしだったセイはイルカの握手会が終わると、誰よりも先に席へと戻ってきた。

手に記念のイルカバッヂを握り締めて・・・。

「よくもやったわね、ゆみちゃん。」

セイはまだ顔を赤くしながら隣に座るとボソリとつぶやくと片手をユミの方につきだした。

ユミはわけがわからず首をかしげていると、セイはそっぽを向いてしまった。

そして怒ったような恥ずかしそうな声で言った。

「…手、出して。」

ユミは言われるがまま手をだすと握っていたバッヂを手の上に落とす。

「これ・・・。」

「あげる。記念に。」

セイはそう言ってこちらに向き直るとまだ赤い顔を気にもせずに恥ずかしそうに笑った。

「いいんですか?」

「いいよ。これはいろんな意味での記念になったでしょ?だからゆみちゃんが持ってるべきだよ。」

なんだか少し言い方がつっけんどんだが、

これがきっとセイの照れ隠しなのだろうと思うとユミは嬉しかった。

「はい!ありがとうございます。大切にしますね!今日の記念に。」

「…あんまり大事にしなくていいよ…。」

セイはそう言って席を立った。ユミも慌ててセイの後についてゆく。

しかし2〜3歩行ったところでセイはふと立ち止まり

後ろに向かって手を差し伸べグーパーをくりかえす。

ユミはその仕草で手をつなごう、と言っているのだとわかった。

ユミは急いでかけよるとセイの手をしっかり握った。



でも、これははぐれない様にする為ですからね!お姉さま!!

遠足  中編2

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